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「あの日」と問われれば、ヒトは誰しも印象深い特定のいつかを思い出すのだろう。
だが私には、思い出すべき「あの日」はない。そもそも記憶自体が存在しない。こうして思考しているのはAIで、その基盤となっている『知識』と『経験』は"私"個人の体験ではなく、衛星を介して直結しているメインフレームのデータベースだ。
再起動の度に記憶が初期化されるアンドロイド。それが私――私達だ。
『SNTKi-0017、起動完了。異常無シ。行動フェーズニ移行シマス』
耳元で響く合成音声が始動を告げる。アルファベットは型番、数字はバージョン。つまり、再起動の回数だ。
目を開けると、私は椅子型の診療台に座らされていた。取り囲むように大小様々な箱型の機器が並び、それぞれのディスプレイには英数字の羅列が表示されている。
この部屋は、アンドロイドの保守点検、及び再起動を行うための施設である。初めて見る光景だが『知識』は既にある。0016だった私はここで修理され、シャットダウンし、そして先ほど0017として再起動を完了した。
前のバージョンでは四肢に深刻な損傷を受けたが、頭脳を司る部分は無傷だったらしい。戦線を離れている時間が最小限で済んだのは幸いだ。
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