美代の事件

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美代の事件

犯人の犯罪日記が、週刊紙に公開されてから半年後に、事件の再現をやったテレビ動画を僕はクリックした。 前半は、リポーターが淡々と話し、後半は、俳優さんがドラマを演じた。 「最後の被害者になりました。山中美代(やまなかみよ)さんのマンションの前に来ています。来月、こちらのマンションは解体される事が決まりました。」 今は、ファミリー向けのマンションに変わってる。 「犯人は、彼女を狙ったわけではありません。こちらに、犯人の残した日記の文面があります。」 そう言って、リポーターは、彼女のマンションで、そのノートを読み上げる。 「5人を殺害する計画を立てている。あいつ等に、助けることはできるだろうか?この後、被害女性と交際していたと思われます五人の男性の名前が並んでいます。」 僕は、その動画を見つめている。 「一人目の被害女性の彼氏には、肩をぶつけられた。」 何の話をしているのか、僕には、いまだに理解できなかった。 「最後の山中美代(やまなかみよ)さんの彼氏には、あの場所で挨拶をしたのに無視をされ、犬に吠えられた。と言う理由でした。」 あの場所と犬、繋がり合うのは、あの桜の木の下しか考えられなかった。 「犯人は、身勝手な理由で力の弱い女性を暴行し、殺害します。最後の被害女性には、身体中に体液が残されていました。」 僕は、動画を飛ばした。 母がくれた当時の新聞記事を見ながら、動画を再生した。 「この犯行を、プリンスに捧ぐ」 . . . . . 「クソッタレー」 僕は、机を叩いた。 「兄ちゃん、何してんねん」 大和が、その音に驚いて入ってきた。 「プリンスに捧ぐ。」 動画の主は、僕の怒りを掻き立てるように、何度もそこを繋げていた。 「プリンスに捧ぐ。」 「プリンスに捧ぐ。」 それを止めたのは、大和だった。 「大和」 「兄ちゃん、明日俺の結婚式やで。こんなん見んなや」 「大和」 「プリンスって、何やねん」 大和は、テーブルの新聞記事を見て僕の顔を見つめた。 「模倣犯やったんか…。美代ちゃんの犯人」 大和は、目を見開いている。 母が渡してきた記事に、こう書かれていた。 【私は、復讐のプリンス。愛するプリンセスを殺された。私は、プリンセスを殺した五人に復讐する事を誓った。どうか、我が復讐を許して欲しい。】 「ド変態やろうが」 僕は、机を叩いた。 「兄ちゃん」 「こいつは、同性愛者だったんだ。何で、何で、夢子ちゃんが殺されたんだよ。」 「兄ちゃん、大丈夫やから」 後でわかったのは、プリンスと言う少年は、同性愛者だった。 「兄ちゃん、模倣犯って事は」 そう言って大和は、僕のパソコンで何かを調べる。 「兄ちゃん、明日俺の結婚式で日下部と話せ」 「日下部?」 「あぁ、美代ちゃんの事件の三番目の被害者の弟や」 「大和の友達だったのか?」 「大学に入ってから、仲良くなった。俺は、兄ちゃんがあの事件にまだ縛られてるって思ってへんかったから。せやから、ゆわんかった。また、あの日の兄ちゃんに戻る気がしたから」 「大和、忘れられないんだよ。あの日の犯人の笑った顔、食べていた飴の音、靴の音、つり上がった目、あの笑い声、全部、全部、忘れられないんだよ。」 「ごめん。ごめんな。気づいてあげれんで、ごめんな」 大和は、僕の背中を撫で続けてくれた。 「いっちゃん、アイスノン持ってきたよ」 顔を上げると母が、アイスノンを渡してくれた。 「兄ちゃん、明日はカッコよくおってや」 「わかってる」 「いっちゃんの人生は、悪い事ばかりじゃないよ。お母さんは、生きてる」 「お婆ちゃんは、死んだ」 「お婆ちゃんは、病気でしょ?」 「全部、兄ちゃんのせいじゃないから」 「わかってる。わかってるよ。もう、何も言わないでくれ」 「わかった。」 「おやすみ、いっちゃん」 「おやすみ」 母と大和は、出ていった。 僕は、アイスノンを目に当てながら目を瞑った。
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