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「岡…じゃなくて、辻村颯。呼ばれて飛び出て、ここに見参じゃ!悪漢どもよ、そこな生徒から手を離せぃ」
あっ、しまった。つい勢い余って、普段の喋り方になったぞい。まぁ、えぇわい。所詮は、付け焼き刃と言うものじゃった。これからは、このキャラで行くぞい!広い世界に、一人はこんな喋り方のDKもおるじゃろ。
「何だぁ?てめぇは…。離さなかったら、どうするつもりだって」
こうするんじゃよ。言うが早いか、トオイの胸ぐらを掴んでいた者の手を逆にこちらから掴んでやった。そしてそのまま身体を捻らせ、思い切り地面に投げ飛ばしてやった。続いて後ろから襲ってきた輩を、これまた背負い投げにて投げ飛ばしてやる。
言い忘れておったかの。ワシ、高校時代は将来を有望視されていた柔道選手だったんじゃ。大学時代に足を痛め、選手の道は断念したが…。それでも経験を活かし、卒業後は警察学校にて格闘技の教官をしておったよ。こんなヘナチョコ小僧どもが、束になったとて負ける気はせんわい。
それにしても、足の傷がなくなったこともあるが…。若い身体と言うのは、ええのう。動きのキレが、違うぞい!
身体が軽い。こんな幸せな気分で、戦うのは初めて。もう何も怖くな…とまぁ。こんな感じで文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げして敵の数を減らしておったぞい。
「ほいっ。こいつで終わりじゃ」
言うて、最後の一人を投げ飛ばす。辺りには、死屍累々の列が出来上がっておったぞい。それもこれも、可愛いトオイを泣かしめたからこそ。天罰てきめんと言うやつじゃな!気づけば、そこかしこの窓から戦いの行く末を見ておったらしいギャラリーから拍手が沸き起こる。お主ら、しっかりと見ておったんかい!まぁ、そんなことはどうでもよろしい。
ふとトオイの顔を見やれば、歓喜の表情を浮かべワシに感謝の念を称えておる…。のを通り越して、若干Ωが発情したような表情になってやせんか?雪兎くんに見せてもらったBL漫画で言うところの、メス顔と言うやつじゃな…。
「えぇと…辻村、くん?助けてくれて、とっても嬉しい!ありがとう!こいつら、おれに付き合えとかデートしろとか毎日うるさくって…」
え?そうだったん?それ、『苛められてる』のとは多少違くないかの?そう言えば…トオイから『同級生に絡まれている』と相談されたのを、曲解したような気もするわい。
それじゃ今倒れている輩は、好意を持ってトオイに接しておった…?ま、まぁいずれひ孫にまとわりつく悪い虫を退治したと言えなくもなかろうがの。ちなみにワシは後々、こ奴らから熱烈なアプローチを受けることになるがそれはまた別のお話…。
「強いんだね。うちの、ひい爺ちゃんみたいだ。それに、すっごいイケメンだし…。おれ、辻村くんみたいな人大好き…」
そう言って、トオイがワシの身体を抱きしめてきおった。おいおい、ギャラリーがまだおるぞギャラリーが!…っていやいや、まだ慌てるような時間ではない。これはアレじゃ。自分のことを助けてくれた同級生に対する、感謝及び畏敬の念じゃ…。と思ったのも、束の間。顔を近づけ、ワシに口づけしてきおった…。のみならず、舌までブチ込んでわりと自由に弄んできおった…。
えぇとこれ、ファーストキッスに当たるのかの?嫁さんとはさんざっぱらちゅっちゅしたが、何分この時代は色を知らぬ生息子であったもんで…。
と言うかこれ、色々と大丈夫かの?実のひい爺さんと、ひ孫同士で接吻するなど。…いやいや、こいつはアレじゃよ。映画の、『バ○ク・○ゥ・○・フ○ー○ャー』で見たところじゃ。親族同士のキスは、親戚の赤子にキスするようなもの。快楽など、微塵も発生せん…。
と思いきや、薄々目を開けるとトオイはメス顔を通り越したトロ顔とも言うべき恍惚の表情を浮かべておる。えぇい、実のひ孫ながらこの色ボケ野郎が!かく言うワシも、何だか頭がぼんやりとして気持ちよくなってきたぞい…。
って、これ以上は危険じゃ!そうじゃ、ギャラリーが残っておるんじゃった。男同士のディープキスを見て、さぞやドン引き…してるかと思いきや。
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なんか知らんが、そこかしこで拍手の渦が沸き起こっておった。突如として芽生えたワシらの愛を、心から祝福するものであるらしい。
なんじゃこれ。なーんじゃこれ。この生徒らは…と言うか令和と言うこの世の中は、一体なんなんじゃ。
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