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かーらーのー。流れるような動作でワシの身体を壁際に寄せ、頭上の壁に手を付いてきおった!
これは、話に聞く『壁ドン』じゃな?女優の綾瀬はるかさんだったが言っておったが、実際されると恐怖しか感じないものじゃ。と言うか柔道有段者のワシがなすすべもないとは、こやつ一体何者じゃ。『おもしれぇ男』から壁ドンに至る、見事なまでの高速連続技…。これが柔道の試合であったなら、合わせ技で一本取られていたかも知れんぞい。
あ。ちなみに身長差で言うと、ワシはひ孫のトオイより5cm低い160cm。つまりは目の前のエニシと比べると、15cm差…。これは一番キスがしやすい身長差の黄金比だと、雪兎くんが言うておった(実際に、自分と想い人がちょうど15cm差なんじゃと)。
ハハハ。だからと言って、まさかのう。昨日ひ孫とあれだけディープなキスを交わしたばかりじゃと言うに、日を跨いですぐまた別の男性とキスするなど…。
と、我ながら懇切丁寧なフラグを構築したところ。彼がワシの顔を優しく手で引き寄せ、唇に唇を合わせてきおった…。これが、お約束と言うやつであろうかの。
廊下にはやはりギャラリーがおって、本日も二人の愛を讃える拍手と歓声を湧きあげてきおった…。うんうん。もう、どうぞ皆さんお好きにしてくれい。ギャラリーの中にはトオイもおって、番町皿屋敷もかくやとばかりの恨めしげな視線を寄越してきおった気がするが定かではないぞい。
全く、何なんじゃこの世の中…。と言うか、ワシの人生は。二日連続で、別の男性からディープキスをされただけに留まらず…。まさか齢90に片足を突っ込んで、実のひ孫とその幼なじみからサンドイッチされる日が来ようとは思わなんだな。
彼に舌を突っ込まれながら思い出したことがあったが、大昔ワシに告白してきおった男…。奴も目の前の笹川縁と、同じ顔をしていたのではなかったか。もしや、親族?奴が同じく笹川姓であったか、もはや記憶にはないがの。
さらに考えを巡らすと、ふと思い至る点があったぞい。ワシは当初、自分が若返ったのはトオイのためと思っておった。彼の学園生活での敵を排除せしめ、さらには秘めたる想いを成就させるためだと。
しかし、実際には違ったのでないか?若返りは、他ならぬ自分自身のためであったのでは…。もし若い頃、男性からの告白に応えておったら人生はどう違っておったか。その疑問に対する、答えを探るためではなかろうか。
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