岡坂宗介

2/9
前へ
/43ページ
次へ
 すでに述べた通り、本日は朝からの雨。ただでさえ緑が混じっておった桜の花が、この雨で一気に散るじゃろうなと思っておった。まぁ、昨日の日曜日は絶好の花見日和だったようで何より何より。ワシも、散歩がてら近くの公園まで出歩いておったぞい。  雨は嫌いじゃ。足の古傷が、痛みだすからの…。そんなことを考えながら、自宅兼接骨院の診察室で座っておった時じゃ。ワシのひ孫の一人が、学校帰りにうちを訪ねてきおった。  岡坂登生16歳。この春、近所の男子校に入学したばかりじゃ。こちらも、気軽にトオイと呼んでくれて構わんぞい。トオイがうちを訪れるのは、そう珍しいことでもない。なにぶん、中学時代に母親が離婚して出ていったもので父親との二人暮らし。その父親も、仕事であまり家に寄りつかんようじゃからの。  トオイの父親…つまりワシの孫は、なかなかに優秀で某一流企業の商社マンをしておる。その分、出張やら何やらで家を空ける日が多いのは仕方のないことじゃ。  ただ、自分の孫を悪く言うのも何じゃが…。あまり、家庭や家族を省みる性分ではなかったらしいのう。結果、耐えきれなくなった奥さんは離婚して東北の方で暮らしておる。トオイは母親に懐いておったが、なぜそれに付いて行かなんだか…。誰にも干渉されない生活が、性分に合っておったのかの。不在がちな父親の許、一人暮らしに近い生活を続けておる。幸い家は近いので、こうやって訪ねてくることもあれば逆にワシがトオイ宅に赴くこともあるよ。親族と言うよりは、年の離れた友人のような関係性かの。  さて、前置きが長くなったわい。本日、トオイが訪れてきたのにはとある理由があったからでの…。  「何ィ!?入学早々、同級生から苛められておる?」
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加