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耳を疑ったわい。至って温厚な性分のトオイは、昔から苛めなどには無縁であったのじゃ。しかも、その理由と言うのがの…。
「高校で再会した幼なじみに告白したのが、仲間内に知れ渡ったァ!?」
重ねて言うが、トオイが通っとるのは男子校じゃよ。つまり告白した幼なじみと言うのも、当然ながら男…。そう言えば名前を何と言ったか、幼少時代やけに仲のいい友人がおった気がするぞい。当時すでにトオイの父母は不仲であったため、相談に乗ってもらううちに仲良くなったんだそうな。
つまり、トオイの恋愛対象は男…。い、いや。今は、そんなことを論じておる場合ではないぞい。
「苛めとは、許せん!学校に、怒鳴り込んで…。その前に、その生徒らの名を教えるんじゃ。昔取った杵柄で、ワシが全員投げ飛ばしてやるわい!」
「や…やめてよ。マジに、そういうのやめて。そんなことしてもらうため、爺ちゃんに相談した訳じゃないから。それより、相談したいのはむしろ前半部分の方であってね…」
前半部分、つまりは幼なじみ(♂)に恋した方であろう。
「彼、昔とは人が変わったみたいになってて…。そいつの家庭でも、色々と面白くないことがあったみたいだから。でもさ。同じ傷を抱えた者同士、うまくやっていけるんじゃないかって…」
「と、トオイ…。それは、いかんぞい。そんな、犬同士で傷を舐め合うような…。と言う遥か以前に、お互い男同士なんじゃろ!?ダメじゃダメじゃ。のう、トオイよ。命と言うのは、巡っていくものじゃぞい。お主と言う人間が生まれてきたのも、ワシと女房が結ばれたからであっての…」
「はぁ?何それ。子供が生まれてこなきゃ、恋愛じゃないって?自分と言う人間を曲げて、女性と結婚しなきゃならないの?今は、そう言う時代じゃないって。爺ちゃんにだけは、そんなこと言われたくなかった!」
そう言って、トオイは接骨院を飛び出して行きおった。おいちょっと、雨!まだ、降っておるぞい!傘、忘れて行きおった!昔から、ちょっと濡れただけですぐに風邪をひくと言うのに。
ワシも、すぐさま駆け出したが…。なにぶん、そこは若人と年寄の足の差。それにワシは、昔とある事故で足を痛めあまり速く走ることが出来んのじゃ。一応二人分の傘は持ったが、あまり意味もなく濡れて立ち尽くしておったところ。
ワシの近くにてポルシェが止まって、中から妙齢の女性が話しかけてきた。
「あら?岡坂のお爺ちゃん?どうしたの、こんな所で」
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