3人が本棚に入れています
本棚に追加
和哉(かずや)は今日もクタクタになって仕事を終え、病院をあとにしていた。
和哉が勤務する病院は心療内科だ。
そこでカウンセラーとして働いている。
毎日、患者の苦しみや辛さを聞いて患者の心の澱を吐き出させるのが和哉の仕事だ。
はじめこそ自分が話を聞くことにより患者が元気になる姿を見ると嬉しくなっていたが、また同じ患者たちが苦しいと自分に訴えカウンセリングを希望してくると次第にウンザリしてしまうようになってしまっていた和哉だった。
いつになったら、この人たちは満足するのだろうか?
精神科医が診察をし、お薬を処方されている患者たちである。
確かに中には回復し心療内科へ来なくなった患者もいる。
しかし重度の患者たちは何年も心療内科に通院している。
和哉の元に訪れるのは、そういった心に深い闇を持つ患者たちだ。
顔馴染みになった患者もいる。
カウンセリングをするとホッとすると言われれば嬉しくもあるが何人もの患者の話を聞いていると、和哉のメンタルが少しづつ崩れて行くのが自分でも分かってしまうから厄介であった。
そして毎日、同じ帰り道を歩くのにもウンザリしていた。
和哉の住むマンションは心療内科から近くにある。
高層マンションが建ち並ぶ窓からは明るい光が澱んだ和哉の心に更に追い討ちをかける。
嗚呼……この光の中の人は幸せなんだろうな?
そう思うと忌々しくもあり羨ましくもなる。
こんな毎日が何時まで続くのだろうか?
気が狂いそうだ!!
和哉はアスファルトに転がっていた空き缶を思いっきり蹴っ飛ばしてやった。
その時である。
空から和哉の目の前に向かって何かが舞い落ちてきた。
なんだろう?
和哉は足元に落ちた物に目を向け拾い上げた。
和哉が手にしたのは一冊の絵本だった。
最初のコメントを投稿しよう!