花、零散る

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「どうして……」  律花の声は、少し震えていた。 「私もさ……消えちゃいたいんだ」 「なんでよ」 「さっき律花も言ったでしょう? 私なんてどこにでもいるような子なの。そんな何をしても普通のつまらない人生……いらない」 「さっきのはそういう意味で言ったんじゃ……」 「それはわかってる。でも、私の苦しい気持ちは、律花にはわからないよ。顔も綺麗で、スタイルも良くてさ、クラスに1人でいても平気な、強い律花には」 「陽菜にだっていい所はある。友達もたくさんいるじゃない。誰とでも仲良くなれるって、すごいことだと思う」 「友達なんていないよ……誰とでも浅く仲良くなるだけだから、どこのグループにも入れなくて……だから結局1人」 「それでもすごいよ」 「すごくないよ。今日だって見たでしょう? 1人でお弁当持って中庭に逃げるのも、一緒にご飯を食べるような友達なんていないから」 「…………」  静かな律花に反して、私の言葉はどんどん熱を帯びていく。 「けど私は弱いから、誰かと一緒にいないと怖くて怖くて仕方ないの! だから中途半端にヘラヘラして、表面上は誰とでも仲良くして……そんな自分が大嫌いなの。それでいて毎日嫌われないようにビクビクしながら学校に来てる……律花にはわからないでしょう?」  言葉が溢れて止まらなかった。こんな話、家族にもしたことないのに……今日初めてちゃんと話したようなクラスメイトに、こんなにも本音を話してしまうなんて。 「……そうね、わからない。けど……死ぬのはやめなよ」  律花は私の話を全部聞いた上で、それでも静かにそう言った。 「なんで?」 「だって、良くないよ……」 「ふーん、自分は死のうとしてるくせに、私が死ぬのは止めるんだ」 「陽菜には家族がいるでしょ」 「律花にだっているじゃん」  その瞬間、私の頬に鋭い痛みが走った。  律花が私の頬を叩いたせいだった。  お人形のような彼女は、痣だらけの足で立ち上がって、絆創膏の貼られた顔を泣きそうに歪めて、包帯を巻いた方の手で、私を叩いた。 「陽菜の家にいる家族は……陽菜のことを殴ったりしないでしょう? 仕事で何日も家を空けたりしないでしょう? 帰ったらおかえりが聞こえて、出来たてのご飯がでてくるんでしょう?」  ……そういうことか。  律花の台詞を聞いて、彼女の家庭環境を覗き見たような気がした。 「愛されてるくせに……一緒に死のうなんて言わないで」  律花の怒気のこもった視線と言葉を浴びながら……私は笑いだした。 「なに、笑ってんの……」  驚きと恐怖さえ孕んだ彼女の目が、私をとらえた。 「……はぁー、なんかお腹空いちゃった」  ひとしきり笑い終わった私は、律花の左手を、さっき私の頬を叩いた手を掴んだ。 「死にたくなるほど食べたいならさ、出来たてのご飯、一緒に食べに行こ!」  私たちは学校を出て、近くのファミレスへ走った。
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