1人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうして……」
律花の声は、少し震えていた。
「私もさ……消えちゃいたいんだ」
「なんでよ」
「さっき律花も言ったでしょう? 私なんてどこにでもいるような子なの。そんな何をしても普通のつまらない人生……いらない」
「さっきのはそういう意味で言ったんじゃ……」
「それはわかってる。でも、私の苦しい気持ちは、律花にはわからないよ。顔も綺麗で、スタイルも良くてさ、クラスに1人でいても平気な、強い律花には」
「陽菜にだっていい所はある。友達もたくさんいるじゃない。誰とでも仲良くなれるって、すごいことだと思う」
「友達なんていないよ……誰とでも浅く仲良くなるだけだから、どこのグループにも入れなくて……だから結局1人」
「それでもすごいよ」
「すごくないよ。今日だって見たでしょう? 1人でお弁当持って中庭に逃げるのも、一緒にご飯を食べるような友達なんていないから」
「…………」
静かな律花に反して、私の言葉はどんどん熱を帯びていく。
「けど私は弱いから、誰かと一緒にいないと怖くて怖くて仕方ないの! だから中途半端にヘラヘラして、表面上は誰とでも仲良くして……そんな自分が大嫌いなの。それでいて毎日嫌われないようにビクビクしながら学校に来てる……律花にはわからないでしょう?」
言葉が溢れて止まらなかった。こんな話、家族にもしたことないのに……今日初めてちゃんと話したようなクラスメイトに、こんなにも本音を話してしまうなんて。
「……そうね、わからない。けど……死ぬのはやめなよ」
律花は私の話を全部聞いた上で、それでも静かにそう言った。
「なんで?」
「だって、良くないよ……」
「ふーん、自分は死のうとしてるくせに、私が死ぬのは止めるんだ」
「陽菜には家族がいるでしょ」
「律花にだっているじゃん」
その瞬間、私の頬に鋭い痛みが走った。
律花が私の頬を叩いたせいだった。
お人形のような彼女は、痣だらけの足で立ち上がって、絆創膏の貼られた顔を泣きそうに歪めて、包帯を巻いた方の手で、私を叩いた。
「陽菜の家にいる家族は……陽菜のことを殴ったりしないでしょう? 仕事で何日も家を空けたりしないでしょう? 帰ったらおかえりが聞こえて、出来たてのご飯がでてくるんでしょう?」
……そういうことか。
律花の台詞を聞いて、彼女の家庭環境を覗き見たような気がした。
「愛されてるくせに……一緒に死のうなんて言わないで」
律花の怒気のこもった視線と言葉を浴びながら……私は笑いだした。
「なに、笑ってんの……」
驚きと恐怖さえ孕んだ彼女の目が、私をとらえた。
「……はぁー、なんかお腹空いちゃった」
ひとしきり笑い終わった私は、律花の左手を、さっき私の頬を叩いた手を掴んだ。
「死にたくなるほど食べたいならさ、出来たてのご飯、一緒に食べに行こ!」
私たちは学校を出て、近くのファミレスへ走った。
最初のコメントを投稿しよう!