2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
クマのぬいぐるみ
ハサミには注意した。ぬいぐるみは一直線にベッドに向かっているが、ぼくの手で捕まえられるだろうか。手を伸ばしてケガをしないか。ハサミを向けてくるかもしれない。
まるで野生の犬を相手にするような気持ちだった。
僕は小心者で勇気がなくて考えている通りに体が動かない。そのぬいぐるみを鷲掴みにして窓の外に放り投げてやればいいのに。
ぼくはぬいぐるみの前に立ってこれ以上進めないように通せんぼをした。それが精一杯だった。
「どけや、クソ野郎」
ぬいぐるみがしゃべった。
「なんで(彼女をねらうんだ)?」
「こいつがわたしの服を切りやがったんだ。おかげでわたしは裸だよ」
くまの裸に違和感はなかったが、怒りに満ちているのはよくわかった。体中の毛が逆だっている。
「そいつの服もズタズタに切り刻んでやる」
「待て!」と言おうとしたが、ぬいぐるみの体当たりで驚いてバランスをくずしてベッドに倒れ込んだ。
カナエさんの髪が腕に当たるくらいの距離。
起こそうと思って体を揺すったが起きない。
「無駄だよ。あたしが眠らせた!」
ぬいぐるみを恐れる自分を嫌になった。それ以上に彼女を眠らせた?そんなことがこのぬいぐるみにできるのか?
こいつ嘘をついているんじゃないか?
虚勢を張るデクノボウが気に入らない。
ぼくはやっと何かのスイッチが入った。
ぬいぐるみのハサミを取り上げてその腕と胴体をつないでいる紐を切ると、腕がボトリと落とした。
これでもう悪さはできない。さながら、悪のぬいぐるみを倒してお姫様が目覚めるのを待つ王子様だ。
カナエさんはまだ眠っている。やっぱりこのぬいぐるみが彼女を眠らせたわけじゃない。そしてもっと最悪なことに他の誰かの仕業のようだ。魔法をかけた犯人を倒すまで彼女は目覚めない。そういうことのようだ。
そんな想像をしながら寝顔を見ていたので気がつかなかったが、いつの間にか大男のような巨大な人形が部屋にいた。
幼い頃に持っていたあのヒーロー人形が巨大な大男になってそこにいて、ぼくを見下ろしていた。
「お前は約束を破った。ゆるさない」
最初のコメントを投稿しよう!