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⑩プロポーズ
こじんまりとした隠れ家風の居酒屋にて、
「やっぱりここは居心地がいいですよね、こじんまりとしていて」
「そうだな」
松木さんが笑う。
「ですよね」
私は、今日までの松木さんといろいろと合ったことを振り返りながら、
「ところで今日は、私に何を話したかったんですか?」
松木さんは、一口ビールを飲むと、
「それは…後で話すよ」
とりあえず今は食べて飲もうと思いコクンと頷き、ニッコリと笑った。
松木さんは安心したのかビールを飲み干すと、おかわりとおつまみとかを注文した。
私は、話しをしていて以前の咲桜さんの言葉を思い出して、
「私を泣かさないようにして下さいね。
泣かされたら、すぐに咲桜さんに連絡しましからねっ!」
「それはだけは、勘弁してほしいな…あの人はマジで怖い。何を考えているかわからないから…」
「そうですか?
私は、わかりやすい人だと思いますよ」
「俺が泣かされそうな気がするけど…。
それが飲み終わったら出ようか?」
「はい。
…出る前にトイレに行ってきますね」
「じゃ、その前に俺が行ってこようかな」
松木さんは、トイレに向かった。
私は、その間に飲みながら、松木さんと堀口さんとの間で何があったのか考えていたが、もう終わった事だったので振り返るのはやめた。
「まだ、飲み終わってなかったんだ」
「え?」
グラスの中は松木さんが席を外した時と同じだった。
私は、一気に飲み干して、
「行ってきますね」
トイレに向かいながらも考えないように意識をしていたが一度気になると頭から離れなかった。
席に戻ると松木さんがお店を出る準備をしていたので、私もコートを着てカバンから財布を出そうとすると、
「俺が払うからいいよ」
「でも…」
「おごらせてほしいな」
「ありがとうございます」
「じゃ、行こうか」
松木さんはレジに向かう。私は、その後をついていく。
いつものパターンだ。
外に出ると寒かったが、まだ、酔っているのであまり寒さは感じなかった。
「少し歩こうか?」
松木さんが私に手を差し出す。
私は、松木さんの手をつなぎ、松木さんは自分のコートのポケットに私の手と一緒に入れ、しばらく私たちはしばらく無言で歩いていたが、私は気になっていたので聞いてみることにした。
「言いたくなかったら言わなくてもいいんですけど…」
「どうした?」
「以前に堀口さんと居酒屋で会った時とか…私が知らないことを知りたいんだけど…?」
「え?
前に話さなかった?」
「聞いたとは思いますが…」
「何が聞きたい?」
「ただ、堀口さんとは何もなかったんですよね?」
「ない…あるわけがない!
前に話した通りだよ」
「疑ってた訳じゃないですよ。
ただ…堀口さんは強引な人だから…」
「わかってるよ。
ただ、知りたかったんだよな?」
松木さんは立ち止まって、私をそっと抱き寄せ、
「この場所って、クリスマスまでイルミネーションしてて、賑わってたのに終わったら寂しいな」
「そうですね」
橋の欄干から暗い川の流れを並んで見ていると…、
「来年のクリスマスまでには結婚して一緒に来たいな」
柔らかく微笑み私を見つめ、私の返事を聞かずにまた抱き締められてしまった。
「ありがとう…好きだよ、咲」
名前を呼ばれて顔を上げるとそっとキスされた。
「絶対…とは言えないけど、泣かせないようにする。とても大切に思ってる」
耳許で囁かれる声は甘く心地よく、私はコクコク頷くことしか出来ないでいると、
「これからもヨロシクな」
「…はい。
私こそヨロシクお願いします」
抱き締められている腕をそっとはずして頭を下げる。
松木さんは、私と繋いでいた手とは反対のポケットから指輪のケースを取り出して、中に入っている指輪を取り、私の左手の薬指にはめた。
その指輪は、この間買ったマリッジリングだ。
私も取り出して、もう一度、
「これからもヨロシクお願いします」
松木さんの指にはめた。
松木さんを見ると、
「今日、出来上がったんだ。
早く付けたかったんだ…俺が…ねっ」
松木さんが軽くウィンクをする。
「さ、遅くならないうちに帰ろうか」
私は、松木さんと手を繋ぎながら幸せを噛み締めていた。
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