④おじゃまむし?・・・その1

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④おじゃまむし?・・・その1

松木さんと付き合い始めたのと同じ時期ぐらいに派遣で入ってきた堀口祥子さんに気に入られて仕事の帰りに飲みに行くことが増えた。 今日は、たまたま堀口さんが残業なので1人で帰ることになり、エレベーターを待っていると、前の職場でお世話になった高木さんが、 「久し振り、今は5階で仕事をしてるんだ?」 「あっ、お疲れ様です。 そうなんですよ。」 私は、話しながらエレベーター待ちをしている人達から少し離れて高木さんと話した。 「あのさ、今度飲み会があるんだけど、都合が良かったら来ない?」 「いいんですか?」 「いいと思うよ?」 「私が行って迷惑でなければ、お邪魔します」 ペコッと頭を下げると、 「聞いてみるよ。 で、みんながいいって言ったら連絡するからLINEを教えてもらえるかな?」 「いいですよ。 あと、1つお願いがあるんですけど、今私と一緒に仕事をしてる人もいいですか?」 「俺的にはOKだけど…それも一緒に聞いておくよ」 「ありがとうごさいます」 私と高木さんは話をしながらLINEを交換した。 「じゃ、気をつけて帰れよ」 「はい、ありがとうございます。 お疲れ様です」 私は、エレベーターに乗り久し振りに1人で帰った。 次の日に私は堀口さんにお弁当を食べながら昨日の事を話すと、 「嬉しい、今の部署って若い人とかもいないし、飲み会もなくて面白くないんだよね」 「・・・」 軽く相づちを打ちながら、堀口さんは飲みに誘われたら速攻に行く人だなぁ…と思いながら堀口さんの話を聞いていた。 木曜日のお昼に堀口さんとお弁当を食べていたら私のスマホが鳴ったので、見てみると高木さんからLINEが入った。 『お疲れさま、急で悪いんだけど明日の飲み会に一緒に仕事をしている人もOKなので、来てもらえる?』 堀口さんにスマホの画面を見せて、 「どうかな?」 と、聞くと嬉しそうに、 「もちろん、OKだよ」 満面の笑顔だった。 『お疲れ様です。  明日は大丈夫です。  仕事が終わったら、どこで待っていたらいいですか?』 高木さんからすぐに返事が来た。 『1階のロビーで待っててもらえるかな?』 『わかりました。 明日を楽しみにしていますね』 「明日は仕事を早めに終わらせて一緒に1階のロビーで待ってましょうね」 と、堀口さんに言うと、 「頑張ろうね」 ガッツポーズを作る。 私は、仕事を頑張るのだと思っていたのだが…。 次の日、私達は定時で仕事を終わるように調整をしていたのだが、堀口さんの上司が就業間近に仕事を押し付けられたらしく、 「どうしよう、時間内に終わりそうにないよ」 「来週の月曜じゃダメなの?」 「聞いてみる」 上司のところまで走って行き、聞いているみたいだ。 しばらくすると、私の席まで来て、 「明日の土曜日に出勤になったよ」 少し沈んだ声で言うが、 「とりあえず飲みに行けるので良しとしよう」 ガッツポーズを作る。 仕事が終わりロビーで待っていると、高木さんがエレベーターから降りてきて、私たちを見つけるなり、 「じゃ、行こっか?」 と、歩き出す。 私たちは挨拶もそこそこに高木さんについて行く。 着いた場所は、ボーリング大会の後に行った居酒屋でかなりの人数が集まっていた。 「星川さん」 後ろから声を掛けられ、振り向くと、 「お疲れ様です。 高井さん、お久し振りです」 私は、高井さんに堀口さんを紹介して、一緒に飲んでいると、高井さんが、 「さっきから、咲桜さんが気になるのならば挨拶してきたら…私は堀口さんと飲んでるから…」 軽くウィンクをして私を送り出す。 「ありがとうございます」 私は、少し心配になったが、席を離れて咲桜さんの方へ向かった。 「お疲れ様です。 咲桜さん、猪原さん」 相変わらず咲桜さんの隣の席は咲桜さんの鞄が置いてあったので、 「ここ座ってもいいですよね?」 咲桜さんは、鞄をどけ、ニッコリと笑う。 私はそれだけで、今日一日の疲れが取れた感じがする。 「ありがとうございます」 しばらく、話をしていると堀口さんが私たちのところに来て、さみしそうに、 「私、戻らないといけなくなったから…」 私は、咲桜さんに、 「ここの席を取られないようにして下さいね」 と一言言って、堀口さんとお店の外に行った。 「仕事は…明日でもいいんじゃなかったの?」 「計算ミスがあったみたいで、それは、今日中にしないといけないみたい」 「そうなんだ。 気をつけて行ってらっしゃい」 堀口さんを送りだそうとした時に、松木さんが小走りでお店に来た。 「お疲れ様です」 松木さんに声を掛けると、 「どうしたの?」 と、聞かれたので、堀口さんが職場に戻ることを話すと、松木さんが鞄からお菓子を取り出すと、 「貰い物だけど…仕事頑張って」 と、渡した。 「ありがとうございます」 堀口さんはお菓子を受け取り職場へ戻って行った。 「あげて良かったんですか?」 「欲しかった?」 「違います!」 「そしたら、ヤキモチ?」 「それも違います!」 「それは、残念」 少し嬉しそうに笑っている。 私は、松木さんと一緒にお店に入り、わたしは、咲桜さんの隣に戻った。 「長かったな」 と、咲桜さんに言われて、堀口さんを見送っていたら松木さんが来たことを話すと、チラッと松木さんを見て、 「まっちゃんなぁ、仕事が忙しくて来れるかわからないって言ってたからなぁ…。 それに明日も仕事だから…なぁ」 「そうだったんですね」 「何だかテンション高いから息抜きも兼ねて来たのかな?」 少し心配そうに咲桜さんが言う。 「今日は、早めに帰って、明日に備えて欲しいですね」 「そうだな」 猪原さんが私と咲桜さんの会話を微笑みながら聞いている。 咲桜さんは、私との会話が終わると猪原さんと話し始めたので、その会話を何気なく聞きながらチビチビと梅酒を飲みながら松木さんを目で追っていた。 気がつくと、飲み会は終わっていて、 「あれ?」 「どうした?」 「いつの間に終わったんですか?」 「えっ?  覚えてないの?」 「…記憶が…抜けて…ます」 力なく笑うと、私たちの前を1人歩いている松木さんに猪原さんが、 「まっちゃん!」 と、声を掛けた。 「ちょっと、こっちに来てくれる?」 松木さんは少し怪訝な表情をしながら戻ってきた。 「どうしたんですか?」 私たち3人の顔色をうかがうようにかわるがわる見る。 猪原さんがニヤニヤしながら、 「まっちゃん、左手を出してくれるかな?」 松木さんは、猪原さんに言われた通り、左手を前に出す。 「で、星川さんは右手を出してくれるかな?」 咲桜さんは猪原さんの言いたいことがわかったのか私たちの手をとり手を繋がせ、 「まっちゃん、星川さんが飲んだ後の記憶がないみたいだから、駅まで送ってあげて…」 「星川さん、まっちゃんはいいヤツだよ…俺が保障する」 咲桜さんが私の肩を叩く。 「俺も保障するよ」 と、猪原さんは私の反対側の肩を叩く。 「まっちゃんに泣かされたら俺たちに言えよ! …おつかれ」 軽く手を振り2人は去って行った。 私と松木さんは咲桜さんと猪原さんが私たちが付き合い始めたことを知らないことに思い至り顔を見合わせると笑い出してしまった。 「よろしくお願いします」 と、頭を下げると、松木さんはニコッと笑い、 「よろしくされますかっ。 さっ、駅まで行こうか」 と、歩き出した。 しばらくボーッと歩いていると急に手が引っ張られた。 「危ないな! 手を繋いでいたからよかったけど…気をつけろ!」 私は赤信号を渡ろうとしていたみたいだ。 「すみません、ありがとうございます。 …松木さんがいてくれて助かりました」 松木さんはブツブツと呟いている。 チラッと顔を見ると怒っているみたいなので、 「ごめんなさい、今度から気をつけるので怒らないでくれますか?」 シュンとしながら言うと、仕方ないなというように、 「はぁ~」 わざとらしくため息をつき、 「だいぶ飲んだみたいだなぁ。 …俺のソバから離れるなよ」 自分の言った言葉に少し照れているのか、急に歩く速度が速くなった。 駅に着いたので、 「明日も仕事なんだから早めに休んで下さいね」 「ん、ありがとう」 電車が来たので、 「今日は迷惑をかけてすみませんでした。 送ってくれてありがとうございました」 「気をつけて帰れよ」 「はい、松木さんも気をつけて下さいね」 手を振って別れた。 堀口さんと月曜日の仕事の終わりに飲みに行くことになった。 堀口さんはテンション高く、 「聞いてくれる?」 「どうしたんですか?」 「あのね…土曜日なんだけど…」 なぜか、私はドキッとしてしまった。 堀口さんは私と松木さんの事は知らない。 「松木さんと偶然に帰りのエレベーターで会って途中まで一緒に帰ったんだけど…」 堀口さんは目をキラキラさせて松木さんの事を話している。 「で、星川さんは松木さんの事をどう思ってるの?」 突然、堀口さんが聞いてきた。 私は、ビックリして 「えっ?」 「好きなの?嫌いなの?」 堀口さんは、私と松木さんが付き合っていることは知らない。 「どうして、そんな事を聞いてくるの?」 「えっ?…どうして?…って…」 いままでの、話を聞いていて何となくわかっていたのだが聞いてみた。 「松木さんと一回飲みたいから、誘ってくれないかな?」 突然話をそらされた。 「それぐらいいいよね?」 テーブルに両手をついて、顔を寄せてくるので仕方なく、 「松木さんに聞いてみないとわからないよ」 と、言うと、 「今すぐ聞いてくれないかな? 飲んでいて忘れられたら困るから、私が見てる前で今すぐに連絡してくれないかな?」 私は、堀口さんにわからないようにそっとため息をつくと、スマホを取り出して、松木さんに電話をした。 すぐに繋がり、 「お疲れ様です。 今、電話大丈夫ですか?」 堀口さんに言われて電話をしたことが嫌だったので、少し口調がきつくなってしまった。 「ん、どうした?」 私の声音で様子がおかしいことに気付いたのか、 少し心配そうな感じで尋ねてきた。 その時に堀口さんが私のスマホを奪い、 「お疲れ様です、堀口ですぅ~」 テンション高めで松木さんと何やら話していたが、 私にスマホを返してきた。 「もしもし?」 「今からそこに行くから!!」 松木さんはそれだけ言うと電話を切った。私は、何がなんだかわからず、堀口さんに 「今から松木さんがここに来るって言ってるんだけど…」 「私が教えたんだよぉ~。 まだ、仕事をしてたみたいだから、息抜きに誘ってみたの」 「えっ!?」 「ちょっとトイレに行ってくるね」 仕事中の人を誘うのって非常識だよね…と思っている私をよそに、席を外す。 トイレから堀口さんが戻る前に松木さんはお店に入ってきた。 職場の近くで飲んでいたので、松木さんの到着は思った以上に早かった。 「お疲れ様です。 お仕事中だったんですよね? 迷惑をかけてしまってスミマセン」 私は堀口さんの代わりに謝った。 松木さんは私に優しく笑いかけて、 「星川さんは、気にしなくていいよ」 「本当にスミマセン、来ていただいてありがとうございます」 「謝らなくていいって…咲の顔も見たかったし…」 隣に座り、ビールを注文した。 その時、トイレから戻ってきた堀口さんが、 「お疲れ様ですぅ~」 松木さんが来たことが嬉しいみたいではしゃいだ声で言う。 ビールが運ばれてくると、 「乾杯」 と、上機嫌だ。 「松木さんって、付き合ってる人がいたりするんですかぁ?」 いきなりストレートな質問をする。 私は、びっくりして松木さんを見てしまった。 松木さんもチラッと優しげな表情で私を見て、 「付き合ってる人はいるよ」 「ふーん、そうなんだ でも、結婚してるわけじゃないですよね?」 私は何だか嬉しくて照れくさくて下を向いてニヤけてしまったので、堀口さんの意地悪そうな笑みに気付かなかった。 しばらくすると、堀口さんは私たちの甘ったるい雰囲気で何となく気付いたのか、急に不機嫌になり、 「私、帰る」 と鞄を持って、お店を出ていってしまった。 私と松木さんは、顔を見合わせて同時に笑ってしまった。 「何だったんでしょうね」 私は、涙を拭いながら言うと、 「そうだな…ま、いいんじゃないか? ここからは、二人で飲もう」 「でも…仕事はいいんですか?」 「少しぐらい構わないさ」 私たちは軽くグラスを合わせた。 「実は、以前に話しましたが、福田さんに『松木さんの事好きだからとらないで』て、言われた時に松木さんの事を恋愛感情を持ってはいけないんだって、思ってしまったんです」 松木さんは私の話しを黙って聞いてくれる。 「それに、私…男の人と付き合ったことがないんですけど…。 こんな私でよかったら、これからもお願いします」 自分でも何を言っているのかわからないまま、勢いよく頭を下げると、 「俺の方こそヨロシク!」 松木さんは優しく微笑み軽くグラスを合わせた。 「俺、星川さんのこと大切にするから…。 まっ、泣かせたら、咲桜さんと猪原さんに怒られるし…」 「そうですね。 もう、泣かされましたが、速攻言いに行きますから…ね!」 私たちは顔を見合わせ笑った。 そして、私は大事なことに気付いて、 「堀口さん…お金を置いていきませんでしたね」 「それは、俺が払うよ」 何か松木さんに払わせたくなかったので、 「私が堀口さんの分を払いますっ」 少しきつい口調になってしまった。 そんな私の頭をポンポンと軽く叩くと、 「そしたら、咲の分を俺が払うということでいいかな?」 「それでいいですっ」 松木さんは笑いながら、 「前から思ってたんだけど…表情がコロコロと変わって可愛いな」 「そんなことないですよ…」 そんなことを言われたことがないので、語尾が小さくなり照れて俯いていると、 「さっ、会計をすませて、出るか?」 伝票を持ってレジに行ってしまった。 慌ててカバンを持って松木さんの後を追ったがすでにお金を支払った後だった。 お店を出てから、 「堀口さんの分はいくらですか?」 「いいよ」 「松木さんがそれでいいのならいいですけど…」 話をしながら歩いていると松木さんが私の手をとり繋いできた。 急に意識をしてしまい俯いていると、 「本当に付き合ったことがないのか?」 「ないですよ」 「こんなふうに…手を繋いだりとか…」 「好きでもない人と手は繋ぎませんよ」 私は言ってしまってからヤバイと思っていると、 「俺のこと好き?」 「しりませんっ」 「じゃー、嫌い?」 松木さんを見上げるとニヤニヤと笑っているので、 「そんなことを言う人は…好きじゃないかな…」 冗談っぽく笑いながら言うと、 「本当に可愛いな。 もう少し一緒にいたいけど、仕事をしてくるわ」 繋いでいた手を離す。 私が名残惜しそうに手を見ていると、『そういう仕草が可愛いんだよ』と松木さんの目が語っているような気がした。 「気をつけて帰れよ!」 「はい。 仕事頑張って下さいね」 私は松木さんの後ろ姿を見送ってから駅のホームへ向かった。
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