⑥おじゃまむし?・・・その3

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⑥おじゃまむし?・・・その3

あの居酒屋の出来事があってから、松木さんの事を意識してしまい、なかなか連絡出来ずにいた。 どうしよう? どうやって、何をきっかけにデートとかみんなは誘っているんだろう? 私から誘っていいのかわからないし、行きたいとこがないわけじゃないけど…。 うーん、悩む。 (多分、男性から誘われるのを待っていたり、言葉の端々で匂わすのだと思うが恋愛初心者にはわからないのだろう…と思う) 私から誘うと私が好きすぎるみたいだし…マジ悩む。 私は、ベッドの上でゴロゴロとのたうち回る。 そうだ、松木さんに聞いてみよう。 『お疲れ様です。 松木さんに質問です! どこか行きたいとことかありますか?』 送信っと…迷惑じゃなかったかな? これって、デートに誘って下さいって事になるのかな? こんな事を考えているこの瞬間が楽しい。 返事を待っている間が少し不安だけど…やっぱり楽しい。 毎日のように堀口さんから飲みの誘いがあるが…断っている。 1週間後にやっと、返事が来た。 『お疲れ様。 来週の金曜日なんだけど、職場の近くに新しい居酒屋が出来たので行きたいなぁ』 『お疲れ様です。 私は、予定がないので構いませんが、堀口さんにバレないようにしないといけませんねぇ』 即座に返信した。 『そうだった!! ごめん、すっかり忘れてたよ。 でも、行きたいからお店の地図を送る。 お店の近くに6時ぐらいに来れるかな?』 『わかりました。 楽しみにしてますね』 実は、私も気になっていたお店だったので本当に楽しみだった(堀口さんの事を考えなくていいのならば…だけど) 松木さんはデートだとは思ってないのかな? 少し不安になる。 約束の金曜日…仕事はあまり手につかなくて小さなミスを連発してしまった。 堀口さんの事を考えないようにして、飲みに行くことばかりに思いを馳せていると、 「今日の帰りはどこかに行くの? 予定がなかったら、飲みに行かない?」 堀口さんは私が毎日誘いを断っているし、今日はいつもよりテンションが高いので多分探りを入れてきたのだ。 「ごめんなさい。 予定が入ってるので、また、今度誘って下さいね」 堀口さんの誘いを断り、サッサと仕事を終わらせるためにパソコンに向かうも気持ちとは裏腹にミスが多発する。 何とか定時までには仕事を終わらせて、職場を後にした。 お店の近くに来ると松木さんがすでに来ていた。 「スミマセン、待たせてしまいましたか?」 「さっき、着いたところだから気にしなくていいよ。 さっ、入ろうか」 ドアを開けて入る松木さんの後ろをついていった。 松木さんは予約していたみたいで、すぐに席に案内された。 お店の雰囲気は厨房の周りがカウンター席になっていて、テーブル席には隣の席との間にパーテーションで区切られていた。 カウンター席はすでに埋まっていた。 私たちはテーブル席につこうとしたその時、 「あ、星川さんだ!!」 堀口さんが私たちに近付いてきて、店員さんに 「一緒の席にしてもらってもいいですか?」 私たちに有無を言わせないように店員さんに聞くと店員さんが私たちに「どうしますか?」というような顔を向けたので、「イヤだ!!?」とも言えずに、仕方なしに、「いいですよ」と私と松木さんは一気にテンションが下がった。 堀口さんは1人テンション高く、私が松木さんの隣の席に着こうとすると、 ドンッ 堀口さんは、肘で私をはじき松木さんの腕をとり、 「隣に座ってもいいですよね」 松木さんは堀口さんに絡められた腕をそっと払い除けると、 「星川さん、ここに座って」 松木さんは、イスを引いて私の腕をそっと引き寄せた。 そんな私たちの行動を見て面白くなさそうな顔を堀口さんはしたが、さっさと松木さんの向かいの席に着いて、 「何を頼みます?」 メニューを開き、 「私は、とりあえずビールで」 「俺もとりあえずビールかな? 星川さんは?」 「私は、ファジーネーブル」 私が言い終わるとすぐに堀口さんが店員さんにオーダーを告げる。 その間に私と松木さんがメニューをみていると、すかさず堀口さんが割り込んできて、 「このオススメもおいしそうですよね」 「そうだね、頼んだらいいんじゃないかな?」 適当な返事を松木さんがする。 堀口さんは松木さんが返事をしてくれた事が嬉しかったみたいで、グイグイと話しかけている。 私は、松木さんと2人で話したかったが、だんだんと気分が悪くなってきたため、 「私…今日は帰りますね。 お疲れさまでした」 テーブルにとりあえず二千円を置くと席を立った。 松木さんも立とうとしたので、私は手で制して、 「今日は堀口さんに付き合ってあげて下さい」 私は松木さんを置いてお店を出ようとお店のドアを開けると、入ってくる人とぶつかってしまった。 「あっ、すみません」 顔を上げると、 「あれ? 星川さん、どうしたの?」 咲桜さんと猪原さんが立っていた。 私は、何だか安心してしまい、涙がこぼれた。 咲桜さんはお店の中を見て状況を察し、 「今日はいつものところで飲もうか?」 猪原さんに言うと、お店を後にして2人は、何も聞かずに2人がよく行く居酒屋に連れて行ってくれた。 居酒屋に着くと、とりあえず2人は生ビールを頼み、私は『チューハイの青リンゴ』を頼んだ。 飲み物が来てから、猪原さんが適当に食べ物を注文し、咲桜さんが私に話を聞く(という見事な連携プレー)。 私は、咲桜さんと猪原さんにさっきのお店での出来事を話した。 いつもならば、猪原さんが途中で冗談を言ったりと笑わせたりするのだが、今日は2人とも真面目に私の話を聞いてくれる。 話し終わり、私は渇いた喉を潤すためにチューハイの青リンゴを飲んでいると、 「今からまっちゃんに連絡するから、まっちゃんが来たら2人でどこかで話をしたらいいよ」 咲桜さんは松木さんに電話をかけた。 すぐに松木さんが出たみたいで、 「お疲れさま、星川さんから話を聞いたから、今すぐに俺たちがいつも飲んでる居酒屋に来い!」 「……………」 松木さんの返事は聞こえない。 「相手には仕事の事で俺が呼んでるからとでも言って適当にこっちに来い! 今すぐに!!」 咲桜さんは松木さんの返事も聞かずに電話を切った。 「すぐに来ると思うから」 「はい。 すみません、迷惑をかけてしまって…。 咲桜さんは、どうして私に優しいんですか?」 咲桜さんは猪原さんと顔を見合わせて、 「俺らが星川さんを気に入ってるから…じゃないかな?」 「特に咲桜ちゃんが…!」 猪原さんが意味ありげにウィンクをする。 「どうしてですか?」 不思議に思い咲桜さんに聞いてみた。 「どうしてだろうな?」 ええっ!! まさかの質問返し!? 「いのっちはどう思う?」 「俺は…さくらちゃんが星川さんを気に入ってるから…かな?」 「そう見える?」 「見える、見える」 私は、2人の会話を笑顔で聞いていると、 「俺は、そうやってニコニコと笑って話を聞いてくれるとこ…好きだよ」 咲桜さんの言葉に嬉しくて、 「ありがとうございます。 そういう咲桜さんが好きですよ」 と返すと、猪原さんがこれ見よがしに大きなため息をついた。 私と咲桜さんは恋愛感情がないのでこういうことが言えるのだと思っていた。 やっと私に笑顔が戻った頃に松木さんが居酒屋に到着した。 「まっちゃん、星川さんを泣かせたらダメだよねぇ!」 「えっ! 私…泣いてませんよ。 ちょっと、涙がこぼれただけですよ」 「それを泣いたって言うんだと思うよ!」 うん、うんと猪原さんが頷いている。 「で、まっちゃん! 俺からの命令!」 松木さんはビクビクと咲桜さんに何をいわれるのか怯えている。 「今から星川さんにキチンと説明をしてきなさい! そして、今日は星川さんに手を出すのは禁止な!で、星川さんはカバンを持ってまっちゃんと店を出る!」 2人は手をヒラヒラとさせて、私たちを追い立てる。 私は仕方なく、カバンを持ち、2人に 「ありがとうございました。 お疲れ様です」 と松木さんと共にお店を出た。 お店を出ると松木さんが腕時計をチラッと見て、 「まだ8時か…。 出来たらうるさくなくて落ち着いて話しがしたいな」 いろいろと考えながら歩いている。 「あっ!」 「えっ?」 「俺の部屋に来るか? 咲桜さんに言われたし…言われなくても今日は、何もしないから…」 「ちょっとだけ、お邪魔します」 松木さんが手を繋ごうと手を差し出してきたので、松木さんの手と顔を交互に見ると、 「手を繋ぐのもダメ…かなぁ」 少し悲しそうな声を出すので、「仕方ないな」という感じで手を繋いだ。 本当は私も繋ぎたかったんだけど…心の中でペロッと舌を出した。 電車に乗ると少し混んでいたが次の駅で何とか降りて、 「毎日こんなに混んでるんですか?」 「時間帯によるかな?」 私は松木さんに手を引かれるまま歩いた。 コンビニの前に差し掛かった時に、 「少し食べ物と飲み物でも買っていくか?」 私の返事も聞かずにコンビニに入り、ポテチとお酒類をレジかごに入れ、レジに持って行く。 私はどさくさに紛れてそっと自分の分のトリハイをかごに紛れ込ませた。 松木さんは気付かなかった。 松木さんの住んでいるマンションの部屋の前まで来ると、 「ちょっと部屋を片付けてくるからここで待ってて!」 玄関で待たされる。 しばらくして、 「お待たせ、入ってきて…」 私はこの前のこともあり、緊張してきた。 松木さんを見ると松木さんも心なしか緊張しているように見える。 「ソファに座って」 ソファの前のテーブルには先ほどコンビニで買ったポテチとお酒が置いてあった。 「そうそう、買った覚えのないトリハイがあったんだけど…いつの間に入れたの」 「ヘヘッ…いつでしょう」 ニッと笑うと、軽く叩くふりをした。 「堀口さんの事は飲みながら話すよ」 私は松木さんの隣に腰掛けて、トリハイのプルタブを起こし開けると、プシュッと小気味よい音がする。 松木さんはビールを開けて私たちは、 「乾杯!!」 と、軽く一口飲む。 「で、堀口さんとは何があったんですか?」 少しヤキモチも混ざったのできつい言い方になってしまったが、咲桜さんが連絡してから30分もたってから現れたのだから仕方がない。 松木さんは何が嬉しいのかニコニコしている。 私はそんな松木さんにも腹が立って、軽く松木さんの腕をポカッと叩くと、 「好きな人にヤキモチを妬かれるのって嬉しいもんだな」 ヘラヘラしている。 「笑ってないで教えて下さいっ!!」 「あんまり思い出したくないんだけど…」 前置きをして、ポツリポツリと話してくれた。 私がお店を出てから、松木さんの隣に座り、ベタベタと引っ付いてきたらしい。 「話とかはしなかったんですか?」 「なかったと思うよ…俺は離れたかったから、そもそも聞いてない!」 「そうなんですか?」 上目遣いに探るように聞くと、 「好きでもない人にいいよられても嬉しくないよ」 ハ~ッと、ため息をつき、ビールをグビッとあおり、私をジッと見る。 私は俯いて、 「あの…あんまり見られると恥ずかしいんですけどっ…」 「好きだよ」 引き寄せられ抱きしめられた。 私は、そっと松木さんの背中に腕を回した。 好きな人に抱きしめられると、とってもドキドキするけど安心することに気付いた。 「俺のこと、どう思ってる?」 耳許で囁かれる。 「好き…ですよ」 聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言うと、 「俺の目を見て言って…」 私は俯き首を横に激しく振ると、 「電車に乗ってる時から思ってたんだけど…」 「何ですか?」 「角度的に…」 何が言いたいのかわからず、首をかしげると、 「胸が見えそう」 「!?」 私は胸元を押さえ、松木さんから少し身を離し、 「見ないで下さいっ!!」 と言うと、松木さんは楽しそうに笑うので私までつられて笑ってしまった。 「堀口さんにも同じようなことを言ったら余計に引っ付いてきたんだよなぁ」 しみじみとビールを飲みながら言う。 (そりゃ、そうでしょう。彼女のことだから、私に興味を持ってくれたんだって思うって…) 「そんな事を言ったんですか…」 「俺としては、引くかな…って思ったんだけど…。 俺は、今の星川さんの反応の方が好きかな。 それに、今が楽しい」 「そうですね。 私は咲桜さんや猪原さんと一緒に飲んでる時も楽しかったですよ」 「咲桜さんのこと好き?」 「好きですよ」 即答すると、肩を落としてガックリと項垂れてしまった。 「咲桜さんの事が好きですけど…私たち恋愛感情はないですよ」 「ん?」 「私が咲桜さんの事が好きなのは…家族の話を楽しそうに話していて…聞いていると何だか幸せな気分になるんです。 そして、家庭を大事にしているんだなって…。 そんな家庭を大事に思っている咲桜さんが好きなんです」 「そうなんだ」 松木さんの頭の上に『?』がたくさん見える気がした。 「もし、咲桜さんが星川さんを恋愛対象として見てたらどうするの?」 私はニッコリと笑い、 「気付かないふりをして今まで通りにしてますよ。私は咲桜さんの家庭を壊したくありませんから…。きっと、そんなことはないと思いますが…ところで今、何時ですか?」 「もうすぐ9時半かな?」 「トリハイも飲み終わったので、そろそろ帰りますね」 「ポテチが大きいのだけが残ってるけど…」 「食べるとカケラが落ちてゴミになるから…悪いかな…って思ったんですよ」 「気にしなくていいのに…」 松木さんが急に立ち上がり、タンスの引き出しをゴソゴソと漁っていたが探していたものが見つかったのか、ソファに座り、 「いつでも来れるように、これ渡しとくわ」 私に合鍵を差し出した。 「え? いいんですか?」 「俺がいない時でも勝手に入って構わないから…見られたら困るものは後で捨てとくし…」 「部屋に行くときには事前に連絡しますよ。 それに勝手に見ませんよ」 「まっ、見られて困るようなものは置いてないから勝手に見ても構わないよ」 私は鍵をなくさないように自宅の鍵と一緒につけた。 「テーブルの上、片付けた方がいいですか?」 「そのまま置いといて…」 「今日はありがとうございました」 「駅まで送って行くよ」 私たちは部屋を出た。 「今日は手が冷たくないんだな」 「松木さんと手を繋いでいるからですよ」 歩きながら下から松木さんを見上げる。 「もう少し一緒にいたかったな」 と言うと、 「いつでも来たらいいよ。 気をつけて帰れよ。家に着いたら心配だから連絡して…」 「わかりました。 お疲れさまでした」 そっと、繋いでいた手を離して駅のホームへ向かいながら振り向くと松木さんがまだ見送っていてくれたので周りの人に迷惑にならないように手を振った。
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