⑦デート・・・その1

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⑦デート・・・その1

ほぼ毎日のように松木さんから電話とLINEが来た。 『今度の土曜日なんだけど、どこか行きたいとこある?』 『えっ、仕事は大丈夫なんですか?』 『一段落着いたから大丈夫だよ。 咲桜さんが忙しくなるかな?』 『順番に忙しくなるんですか?』 『そうだね。 ただ、咲桜さんがキレないか心配かな』 『以前、イスを投げようとしてましたからね』 『そんなこともあったねぇ…で、どこに行きたい?』 『すぐには思い付かないので金曜日まで待ってもらえますか?』 『金曜日って明日だけど…なるはやでお願い』 『そしたら、水族館に行きたいです』 『はやっ、何があった』 『イルカがみたいです あと、ペンギン』 『そしたら、水族館ね』 『はい、楽しみにしてますね』 『俺も楽しみにしてるから…待ち合わせ時間とかは、明日連絡するね。 おやすみ』 『はい、おやすみなさい』 水族館につくと、すでに松木さんが待っていた。 「スミマセン、待たせてしまいました?」 「さっき、来てチケットを買っておいたから…」 「ありがとうございます」 私達は、ゲートを抜けた。 私は、いろんな海洋生物が見たくて、 「早く行きましょう」 無意識に松木さんの腕を引っ張っていた。 「本当に好きなんだな」 「はい、大好きです」 「俺のことは…って、聞いてないか」 「松木さん、早く来て下さいよ」 「コツメカワウソ可愛いですね」 目をキラキラして見ているので、 「食べちゃダメだよ」 「食べませんよ」 「人聞きの悪いことを言わないで下さい。 すぐにからかうんだから…」 「ゴメン、ゴメン。 食いつきぎみにみてるから…」 「もう、からかわないで下さい」 ポカッと松木さんの腕を軽く叩くと、 「自分の力加減を知りなさい」 「力入れてませんよ」 私たちは、イチャイチャしながら歩いていた。 私は、イルカの水槽の前に行くと、松木さんの腕を離して1人みていると、急に松木さんが、肩に腕をまわし、 「そんなにニコニコしてイルカを見てるのを見てたらイルカに焼きもち焼くだろう」 「えっ」 びっくりして横を向くと松木さんの顔が近くてさらに驚いていると、 「そろそろお腹が空いたよ」 「歩いているうちにカフェレストランの方に向かいますから、後少し頑張って下さいね」 私は、胸のドキドキをさとられないように歩きだした。 カフェレストランにつくと、私たちは魚の見える席に通された。 食べることよりも魚に夢中になっている私をみて、松木さんは、 「本当に好きなんだな」 「はい、とっても好きですよ。 今日は、私に付き合ってくれて本当にありがとうございます」 頭を下げると、軽く頭をポンポンとたたいて、 「楽しんでる顔を見れて、俺も楽しかったよ」 ニコニコと優しい笑顔をくれる。 「あの、松木さんの行きたいとこってどこですか?」 「俺は…別に行きたいとこはないけど…」 「けど…?」 「咲が隣で笑っていてくれるのならば、それで今は充分かな」 「それって、答えになってないですぅ」 「ハハッ」 「ちょっと、恥ずかしいです」 「言ってる俺は、もっとハズイけど…なっ」 ちょっと、照れてる顔も今の私には眩しかった。 私は、水槽の魚をみていたら、水槽に移った松木さんの優しい眼差しと目が合った。 「で…松木さんは、どこか行きたいとことかないんですか?」 もう一度聞いてみた。 「ん…特にないかな? 堀口さんに会わなければどこでもいいかな」 「そうですねぇ、会えば面倒くさそうですよね」 だんだんとお店が混んできたので、 「もうそろそろ出ようか?」 松木さんが席を立とうとした。 「はい」 チケットを購入してもらったので、ここの支払いをしようと伝票に手を伸ばすと、 「俺に甘えとけ」 と、伝票を持ってレジに向かってしまった。 私が、カバンを持ってレジに行くと支払った後だった。 「ありがとうございます。 ごちそうさまでした」 「どういたしまして」 「ペンギン、見に行こうか?」 「はい」 満面の笑みで松木さんを見上げると、 「本当に好きなんだな」 「動物が好きなんです」 私は、松木さんと手を繋ぎながら、考えていた。 松木さんと一緒にいるだけで幸せだと…。 堀口さんの松木さんを取られたくない気持ちは、子供が大切なおもちゃを取られたくないといったことに似ているような気がする。 きっと、堀口さんは松木さんと付き合うとすぐに別れるような気がする。 堀口さんはその気持ちにいずれわかるのだろうか? 「どうした? トイレならそこにあるけど…」 「違いますけど…あっ、でも、行ってきますね」 「そこのベンチに座ってるから」 「はーい」 私は、少し小走りにトイレに向かった。 楽しいはずなのに、変なことを考えているから松木さんに気をつかわせてしまった。 トイレから戻り、ゆっくりと歩きながら、 「松木さんって車は持ってますか?」 「持ってるけど、どうして?」 「私をドライブに連れていってもらえませんか?」 胸の鼓動がうるさいぐらいに鳴っている。 こんなセリフ言ったことがないし、冗談にもならない。 「どこに行きたい?」 俯いていた顔をあげると、笑顔の松木さんがいた。 「どこでもいいですよ」 まさかの返事だったので考えていなかった。 無人のベンチをさして、 「疲れたから、そこのベンチに座ろうか?」 松木さんは、私が、座るのを待ってから隣に腰をおろして、 「俺に気をつかわなくていいよ。 俺は、今とても楽しいから…星川さんの思うようにしていいから…。 行きたいとこがあれば、気兼ねなく言ってくれて全然いいから…」 「ありがとうございます」 「で、行きたいとこあるの?」 「ないので、松木さんがどこかいい場所を探して私を誘ってくれませんか?」 「調べてみるよ。 ペンギン、見に行こうか?」 松木さんは、立ち上がり、私に手を差し伸べてくれた。私は、手を取り立ち上がると二人で歩き始めた。 ペンギンをみて、順路を進んで水族館を出ると夕方だった。 「すみません、かなりの時間を水族館で過ごすことになってしまって…」 「だから、気にしなくていいって…お腹すいたから食べに行こう。 …お昼にも同じ事を言った気がする」 「言ってましたね。 何を食べに行きます?」 「何が食べたい?」 「何か食べに行っておいしかったとこありませんか?」 「ちょっと時間がかかるけど、大丈夫?」 「はい」 水族館から15分くらいのところにある、小ぢんまりとした洋風のレストランに着いた。 「雑誌にも載ってないし、あんまり人に教えたくないんだけど…」 中に入ると外観とは違って、クラシックが流れていて落ち着いた雰囲気のお店だった。 私たちは、はしっこの席に通された。 私は、キョロキョロしながら、 「いいお店ですね」 「こういうお店好きかなって…」 「何でわかるんですか?」 「何でかな」 松木さんは、優しい眼差しで私を見つめる。 私は、メニューをとって、 「何を頼みます?」 「俺は決まってるから…」 「そうなんですね。 私は、少しお腹が空いたからオススメのハンバーグ定食にしようかな? …これって、かなりボリュームあります?」 「俺は、ここに来たらいつもこれだから…。 食べきれなかったら残してもいいよ」 「これにします」 松木さんがワインも頼んでくれた。 飲み慣れないワインを飲んだからか、少し酔った感じになり、 「松木さんは、どうして私を好きになったんですか?」 前から思っていたことがポーンと口から出てしまった。 松木さんはびっくりして固まっている。 「えっと…あの…その…ムリに答えなくて構いませんので…」 私は、何とか取り繕うとするが、出た言葉が引っ込むわけでもなく…うつむいていると、 「えっ? ………急に何を言うのかと思ったよ」 少し遠い目をして、 「最初に職場に入って来たときからかな。 俺の好きなタイプだった。 話してみて更に引かれていったんだ。 本当は別れ際に渡そうと思ったんだけど…」 そっと、私の前に水族館のロゴが入った小さい紙袋を置いた。 「トイレに行っている間に買ってたんだ。 気に入ってもらえると嬉しいな」 私は、そっと紙袋を取ってみると思ったよりも軽いことに驚き、紙袋をあけて更に驚いた。 そこには、イルカのモチーフのクリスタルのネックレスが入っていた。 「………」 嬉しさのあまり言葉が出なかった。 「着けてあげるよ」 私の隣の席に座り、私の手からネックレスを取るとサッと着けてくれた。 私は、着けてもらっている間もワインのせいなのか、松木さんのせいなのかドキドキが止まらなかった。 帰りは何を話していたのかさえもわからないほど幸せすぎてフワフワして気付いたら家に着いていた。
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