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「出張?」 「そう。九州の大学にね。資料を閲覧させてもらいに。2週間くらいかな」 「そんなに!?」  俺が大きな声を上げると、10歳年上の恋人は困ったように眉尻を下げる。  だって、夏休みだ。  俺にしてみれば、バイトはあるけど大学生最後の夏休みで、ついでに言えば恋人が出来て初めての夏だ。  それなのに。  むすぅっと口を結んでいると、奏人さんは俺の頭を撫でて言った。 「ごめんよ。教授が直接交渉して、貴重な資料を見せてもらえることになったから。今でないと駄目なんだよ」  俺とその資料とどっちが大事なんだよ。  なんてガキみたいなことは言わないけども。  笑って大丈夫と言えるほど大人でもない。 「……帰ってきたら、少しはまとめて休めるだろうから、そうしたらきみの好きなように過ごすから」 「……期待しねーで待ってる」 「匠海」  困ったように溜息をつく相手を見ないで、俺は口を尖らせた。  この人が俺以外に興味がないのは百も承知だけど、周りはそのことは知らないし、黙ってれば適齢期の独身で見た目も人当たりもいい。  行った先で何があるか、分かったもんじゃない。  むっとしかめっ面をしてみせて、どうだ困ってるだろと思いながら視線を戻すと、恋人は微笑ましそうに俺を見ていた。 「……なんだよ」 「言っても怒らないかい?」 「なに」  くす、と笑って奏人さんは言う。 「そういう、心の中を隠しもしないようなところが本当に可愛いよ。匠海」 「ッ……」 「ごめんよ。なるべく短い日程で切り上げられるようにするから」  そう言って抱き寄せられて、頭ぽんぽんなんてされたら、それ以上ゴネられなかったのだけれど。  結局、2週間を過ぎてもまだ、奏人さんは帰って来ない。
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