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「い゛っ……!!」
やわい首筋に吸いつかれる生温かい感触。ルーカスの手で二の腕を固定されており、レイネシアは身体を捩ることもできない。耳元では何かを嚥下する音が繰り返されていく。
ひどい熱さと鋭い痛みに耐えようとしたレイネシアはきつく目を閉じた。身体の中をぐちゃぐちゃに掻き回されるような痛みに、全身を地獄の業火で焼かれているような錯覚を覚える。
「あ゛っ、でん、かっ……や、め......っ! いた、いたいっ、ひ、ぐっ.....」
わけのわからない状況と痛みがレイネシアの鼓動を速くした。心臓が脈打つたび、噛みつかれている首筋が強烈な痛みを訴える。視界が歪んで決壊した涙がレイネシアのこめかみに数えきれない筋を残した。
痛みに喘ぐレイネシアの泣き声は、ルーカスに届かず消えていく。自由な足をばたつかせシーツを蹴り上げるもルーカスはその抵抗を聞き入れることはなかった。わずかな切願も縋るような懇願も虚しく、狂気の時間は永遠のように続いた。
ルーカスがレイネシアを解放したのは、あまりの痛みにレイネシアの視界がぼんやりと暗くなった頃のことだった。
「あぁ……レイア。やっと、やっと私のモノに」
ゆっくりと半身を起こしたルーカスが恍惚とした表情でレイネシアを見つめている。ルーカスの薄い唇は鮮血に染まり、紅を引いているように見えた。その口元からは鋭い牙が覗いている。
ルーカスはひどく緩慢な動作でぺろりと口元を舐めた。その仕草はレイネシアを深い恐怖に陥れるには充分だった。
「やっと……お揃いになれたね、レイア。エルメダ湖のように青い瞳も綺麗だったけど……私とお揃いのこの赤い瞳の方が、君のなめらかなこの金髪に似合っているよ。想像以上に綺麗だ……」
「……え……?」
うっとりと顔を綻ばせたルーカスがレイネシアの目元をゆっくりとなぞった。エルメダ湖はレイネシアが生まれ育ったヘルヴェム帝国の北に位置する美しい湖畔だ。春になると、ルーカスと一緒に物見遊山に行く、とびっきりに景色が綺麗な場所。
「私はね、レイア。君が欲しくて欲しくて仕方なくて、イザベラと契約したんだ」
「けい……やく」
レイネシアは痛みと恐怖で引き攣る呼吸のままに、かろうじて頭に残った単語を反芻させた。
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