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「そう。私はイザベラと契約して、吸血鬼にしてもらったんだ。もっとも人間の肉体を契約によって強制的に造り変えるから、ヴァンパイアのまがいものと言った方が正解かな。不老不死ではない代わりに、日光や十字架では死なない。普段の見た目はイザベラから授かった魔法で見せている幻影だ」
正直信じがたい話だが、先ほどの体験が嘘ではないことを証明している。あの激痛は吸血の痛みだったのだ。
どうしてこんなことになったのだろう。混乱を極めるレイネシアの指先が、次第に氷のように冷たくなっていく。
ルーカスは、自ら望んで魔物になっていた。一国の王子であり、王位継承権すら持ちあわせているはずの彼の目的はなんなのか。レイネシアの脳裏に浮かぶ疑問が自然と口をついた。
「で、んか……どう、して……その、ような」
「理由? レイアが欲しかったから」
「わたしが……」
「そう。レイアを私の眷属にして――私の命が尽きるまで、私のそばに置いておくために」
「……けん……ぞく……?」
「眷属にすれば、レイアは私が死ななければ死なない。この私が先逝くレイアを見送るだなんて、そんな狂気じみたことができるわけがないだろう?
ヴァンパイアと眷属という主従関係になれば、私の命が尽きる瞬間にレイアの命も尽きる。レイアは私が死なない限り、死ぬことはない……そしてね」
ルーカスは抑えきれない笑みを浮かべ、擦り寄るようにレイネシアを抱きしめて首筋に顔を寄せた。
「レイアはもう、私なしでは生きられない。眷属となったものは、主であるヴァンパイアの血を吸わなければ飢餓状態になり発狂してしまうんだ。それを回避するには、主である私の血を吸う、もしくは……」
手袋をしたままのルーカスの手が、レイネシアの下腹を軽くおさえ、撫でさする。
「主である私の『精』をここで受け止めるかの、ふたつしかない」
耳元に流し込まれた甘い毒のような言葉に、ひくりとレイネシアの喉が震えた。
「そ……んな」
レイネシアはひりつく喉を動かしルーカスを見上げた。告げられた現実はどこか遠い国での出来事のようで、レイネシアは未だに信じられずにいた。
ふと、ルーカスが身に纏う軍服の左胸に下がる勲章が目に入る。つるりとした金色の光を放つそれは、わずかながら鏡のようにレイネシアの顔を反射している。そこに映り込むのは、赤い瞳をした人物だ。
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