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レイネシアがカーテシーで挨拶すると、イザベラはゆるりとレイネシアを抱き締めた。イザベラは上機嫌にレイネシアの手を引き、その奥のサロンへとレイネシアを導いていく。
通された広々としたサロンは、レイネシアが住むヘルヴェム帝国の王城にある貴賓室と遜色のない絢爛な造りをしていた。頭上には大きなシャンデリアが煌めき、ビロードのふかふかとしたソファが暖炉を囲むように配置されている。
ただ――四方を囲む壁にはドラゴンや頭部だけが鳥になっている騎士の石像が並び、折れ曲がった鳥かごが部屋の隅に置いてある。退廃的な雰囲気を醸し出すそれらをレイネシアは少し気味悪く感じたが、この屋敷の主であるイザベラにとってはこの空間は居心地の良いものなのだろう。
「それで、今日は相談……だったね。人間の足じゃヘルヴェム帝国からこのニルヴィア国までうんと遠いのに、どうしたの? シア」
イザベラが黒く彩られた爪先で宙を切ると、瞬時にソファの前のローテーブルにアフタヌーンティーセットが現れた。ヴィンテージ感のある黒々としたカップからは湯気が立ち上っており、甘く爽やかな香りが淹れたてなのだとレイネシアに伝えてくる。
――凄い。本当に、イザベラは魔女なのね。
レイネシアは人間で、まして人類種が形成した国家の中で生きてきたので、こうした魔法使いが日常の中にいたことはない。こんな風に、なにをせずともすべてが自らの思い通りになる『魔法』は、憧憬と畏怖の対象だ。
「はい……その。少し、ミズ・イザベラの力をお借りしたくて」
「私のことはベルで構わないよ。君とはもうずいぶん前から友達じゃないか。私はベルと呼んで欲しいなぁ」
イザベラはケーキスタンドに手を伸ばし、真っ赤なフランボワーズを口に含んだ。
五つ年上の姉であるガーネットが魔族種が治めるニルヴィア国の第一王子に嫁いで早四年。そんな姉の紹介で、レイネシアは数ヶ月前から魔女であるイザベラと手紙を交わした。彼女は魔族の中で生きるガーネットの身の回りの相談にも乗ってくれていて、信頼できる魔女だから――ということだった。
数度の手紙を交わした、ただそれだけでレイネシアを友人と扱ってくれるイザベラは、私利私欲や混沌を主とする魔族とはいえ意外と社交的なのだろうし、やはり根本は人間と変わらないのかもしれない。姉が信頼を置くのも頷ける。
「ありがとう、ベル。実は折り入って相談があって」
緊張する自分を落ち着けるように小さく息を吐いて目を瞑る。眼裏に思い出されるのは、月のような光を放つ美しい銀髪に、アメジストのような深い紫色の瞳をした――彼の、優しい笑顔。
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