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「その……私。婚約者の、本当の気持ちが知りたいの」
「シアの婚約者というとアルウィン王国の第三王子、ルーカス・アルウィン・ヴィオルハートだよね」
「うん」
思わず震えそうになる手を抑えるべく、レイネシアは目の前のカップに手を伸ばす。紅茶のあたたかさが冷えた指先を温めていってくれるようだった。
「ルーカス殿下と婚約したのは八年前。彼が十三歳で、私が十歳の時のことなんだけど……一年前の私のデビュタントを機に正式に結婚の話が進むようになって、そのころから二週間に一度はアルウィン王国に行って、王子妃教育を受けているの」
両国の交流を深めるため、アルウィン王国で行われた会談の場で両親に連れられてルーカスと初めて顔を合わせたときのことはよく覚えている。だって、レイネシアはあの瞬間からルーカスに恋をしているのだから。
王城の庭園を案内され、小さなレイネシアの速度に合わせてゆっくりと庭を回ってくれた。そのうえで、繊細な女神の彫刻が美しい噴水の前で、摘んだ赤い薔薇をレイネシアの金色のくせ毛に差し込んで――大人びた彼から「そこの女神像よりもきれいだよ」とそっと微笑まれれば、あっという間に恋に落ちてしまうというものだ。
アルウィン王国の隣に位置するヘルヴェム帝国の第二皇女であるレイネシアも、ある程度の教養は身に着けていて、今回の王子妃教育で学んでいるのはアルウィン王国の成り立ちやお国柄のことが主軸だ。王家に嫁ぐのだから、妃となるレイネシアも外交を任されるようになる。そのための教育。
「勉強が終わったら、必ず殿下がきてくださって、お茶に誘われるのだけど……」
「なるほど。気持ちが知りたい、ということは、おおかたそのお茶の席でどっちつかずな態度を取られる、ってことなんだね」
イザベラから投げかけられた言葉にレイネシアはこくりと頷いた。手元の紅茶を口に含み、そっとローテーブルに置く。
先月、二十一歳になったばかりのルーカス。第三王子とはいえ、彼は王太子である兄の第一王子を支えるため、日々政務に奔走している。その上、陸軍にも所属しているらしい。そんな忙しい彼が時間を調整して必ず会いに来てくれている――はず、だというのに。
「お茶会の時も、私は幅のある大きなソファに座っているのに殿下は違うソファに座るの。隣に座ってくれることもなくて。この前、殿下のお誕生日を祝うパーティーで一度ダンスを踊ったのだけれど、音楽が終わるとすぐに身体を離されて……」
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