【短編】執愛の檻に囚われて

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 アルウィン王城の女官長であるローズに連れられ、二週間に一度の妃教育を終えたレイネシアは、輿入れ後もこちらに連れてくる予定の侍女エリスとともに王族居住区に初めて足を踏み入れた。  ローズが足を止めたのは廊下の行き止まり。その扉を開くと小さな庭園が見渡せる渡り廊下に繋がっており、その先には白亜の離宮が見えている。 「レイネシア様のお部屋はこちらでございます」 「わ……」  ローズが離宮の玄関から奥まった場所にある部屋の扉を開いた。そこは、真っ白な壁紙に淡い色彩の花束や自然を描いた風景画が飾られた可愛らしい部屋だった。書棚やベッド、ソファなどはあたたかみを感じられるホワイトオーク色で統一されていて、優しげで落ち着いた雰囲気に纏められている。 「ご婚礼まで三ヶ月を切っておりますが、こちらへのお通しにお時間がかかってしまい大変申し訳ございませんでした。殿下が家具をすべて揃えるまではレイネシア様を通すなとおっしゃるので、これまでのお茶は王城のサロンへとご案内しておりました次第です」 「まぁ……こちらはすべて殿下が?」 「はい。レイネシア様が落ち着けるようにと、ヘルヴェムの商人に揃えていただきました。……向かって右手に浴室などの水回りを揃えてございます。左手のあちらの扉はお隣のルーカス殿下の私室に繋がっており、夜のお渡りはあちらからとなります」 「そ……う、なのね」  エリスとともにお茶の準備を進めるローズが指差した扉。木目が活きたダークブラウンのそれを目にし、レイネシアは胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。  ……あの扉が活用される日はくるのだろうか。子を成すことは王族の責務でもあるのだから、数度、儀礼的に済ませる運びとなるのかもしれない。  ――でも……それはきっと、仕方のないこと……だもの。  今回の妃教育の中で、閨についての指南もあった。正直、ルーカスとそのような行為をする日がくるのかということで頭がいっぱいで、あまり内容は入ってはこなかったけれども。  お茶の準備を終えたローズがレイネシアに向き直った。テーブルの上には、紅茶が注がれたカップと色鮮やかなマカロンが乗ったケーキプレートが置かれている。 「レイネシア様。殿下は本日、陸軍の会議にご臨席なさっており、もうしばらくお時間がかかるかと」 「えぇ、構いません。こうしてお時間を作っていただけるだけでもありがたいことですわ」 「こちらの都合ばかりで申し訳ございません。ご婚礼後はこちらにお住まいになっていただく関係で、エリスにもこの離宮の設備について説明したく。しばらく彼女をお借りしてよろしいでしょうか」
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