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「これでも……私は王子だからね。毒物耐性の訓練も受けている。この部屋に入った瞬間からなにか盛られてるとは思ったけど、毒性の香りはしなかったからね……気が利くレイアのことだから、滋養強壮だとか、より一層憩える効能だとか……そちら方面だと判断してしまったよ。私としたことが、油断した」
ゆらりと立ち上がったルーカスがレイネシアの腕を掴み上げた。昏く澱んだ赤い瞳は明確な怒気を纏っている。ルーカスに強引に立ち上がらされたレイネシアは全身から血の気が引くのを感じた。
レイネシアはルーカスの心を知りたいだけだった。淡い恋心に諦めをつけるために。それがまさか――このような。ルーカスの変貌を目の当たりにし、そのうえ怒りを買う事態になってしまうなど。
「もっ……もうしわけ、ございませっ……どうか、お許しを……っ!」
「いま正直に話すなら許してあげてもいい。なにを入れた?」
「に……西の魔女にいただいた、真実の姿を見せる薬を……殿下の、お心に……触れたくて」
レイネシアは呼吸を引き攣らせながら必死に釈明する。ルーカスは気色ばんだ表情を変えることなくレイネシアの身体を軽々と抱えあげた。小さく悲鳴を上げたレイネシアはそのままルーカスが選んだとされる天蓋付きのベッドへと落とされる。
「なるほど。どうやら嘘ではないようだね。ほんのわずかだけど、確かにレイアのここからイザベラの血の匂いがする」
「殿、下っ……!」
ギシリと音を立て、レイネシアに覆いかぶさったルーカスが彼女の懐をまさぐる。恐怖に怯えたレイネシアが喚ばわるように抵抗するも、軍人でもあるルーカスはあっさりとレイネシアの動きを制した。彼の手の中でイザベラから譲り受けた小さな小瓶が窓から差し込む日差しを反射している。
「……私の心に触れたい、と?」
妙に冴え冴えとした表情のルーカスは、レイネシアを見おろしたままにやりと笑った。地を這うような声音の問いにレイネシアは凍り付く。
小さな小瓶がレイネシアの顔の横に落とされる。はっと我に返ると、いつの間にかくつろげられていたドレスの胸元からルーカスが手を差し込んでいた。レイネシアの白い首筋があらわになる。
「な、にを......」
ルーカスの真意が読めず、レイネシアが引き攣った声で問いかけると、彼はぞっと背筋が冷えるような冷たい微笑を浮かべた。
「君を、私だけのモノにするんだよ」
囁くように紡がれたその言葉の意味を理解する間も与えられず、ぶつりと音がしてレイネシアの首筋に激痛が走った。
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