夏の青空と母と

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 8月。今年は夏らしい、暑い日が続いた。突き抜けるような碧空と白い雲、照り付ける太陽がまぶしく、少し外出すれば汗でシャツが濡れた。  ある日の夜、父からLINE。  「お母さんが腰痛で動けなくなった。明日ちょっと来てくれないか。」  次の日の午前中、妻と二人、自転車で実家へ向かった。母は、実家の2階の、元私の部屋で、布団に横になっていた。おしっこの臭い…寝たきりでトイレにも行けず、失禁していた。意識もあまりはっきりしておらず、ただ事でないことはすぐに分かった。妻は、すぐにオムツを買いに走った。  その日は、オムツをはかせて、おしっこで汚れた布団から、なんとか寝室のベッドに移し、あとは父と兄に任せて、そのまま仕事に行った。  翌日、救急車を呼んだが、搬送先の病院でコロナ陽性が判明、そのまま自宅に帰された。この日から、5日後に入院するまで、仕事を休んで、皆で完全寝たきりの母の介護をした。初めてのことだらけ。おむつ交換、見よう見まねでやってみる。本人がほとんど動けないので、無理やりだったが、なんとか毎日交換した。歯磨きは、先にスポンジのついた棒で口の中をこする。困ったのは、本人が食事をほとんどしなくなったこと。上半身を起こすことさえ出来ないため、薬も飲めない。水分だけは、父がマグカップにストローを差してねたままの母に飲ませていた。 そして、左半身に麻痺が出た。  やっと近所の大きな病院に入院出来た。診断は、コロナ軽症、脳梗塞、認知症だった。何より、このコロナ禍で、きちんと診察してもらえたことがありがたかった。  身の回りのことはちゃんと自分で出来ていた母、父に連れられてうちの店にも食事に来ていた母、散歩でも結構な距離を歩けた母、物忘れはひどくても、決して家族の顔だけは忘れなかった母。   この夏。母が寝たきりになった。  
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