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メイドが落ちてきた。
そのメイドは、父上が事業を拡大する為に元から雇っている使用人の希望を聞いて、望む者を引き連れ上京し、帝都の近郊の屋敷の使用人として新たに俺の可愛らしくて仕方がない弟の世話、いってしまえば子守りとして雇われ、俺と同い年でもある。
俺と同い年の理由は、俺の弟はとても可愛くて賢いのだが、少しだけワガママなところに元気の塊のようなところもあるので、それにも付き合えるということ体力面でも考慮した上で、何より俺に物凄く懐いてくれていたので、出来れば年齢も兄で俺にある近い感じがいいだろう、そう考えて父上にそう提案していたからだ。
ただ、父上は父上で、事業拡大の為に忙しそうだったし、俺は自分の寄宿学校の受験があって、それに取り組んでいたから、そういった方面の事は信頼できる人物に一任したという話を、寄宿学校に無事に合格が決定し、入学した後、手紙や電話で知ることになる。
そして更に一任した人物は、俺が父上に兄としてちょっとワガママだけれども可愛くて仕方がない弟に、実に適任な存在を宛がったのを、俺は入学した先の寄宿学校で、追加されて知るところになった。
これまで、人の好き嫌いが激しい弟が、父上が信頼する人物から紹介された影響もあるのだろうけれども、一目で気に入ったメイド、それが今俺の上に落ちて来ていて、今その顔は目の前にあった。
今目の前にあるメイドの顔を見て改めて、弟が"一目で気に入った"は正確ではないので言い直そう。
世間、一般でいう"一目惚れ"を弟は、そのメイドにしてしまったのだ。
正直にいって、見た目としては美人という容姿でもないし、かといって男として守ってやりたいという庇護欲をそそる可憐な立ち振舞いをしているわけでもない。
髪だって耳が出てしまう程短い。
「……お兄様、俺……じゃなかった、私も一緒に落ちておきながらこんな事をいうのもなんですが、大丈夫ですか?」
今尋ねてくる声だってとても可愛らしいとか音域としても高いというものとは程遠い、けれど不思議と落ち着く低さで、声に心からの心配を滲ませて俺の身体の様子を尋ねてくる。
「ああ、それにしても、新しい屋敷の庭にこんなに大きな穴があったなんて、知らなかった。
何というか、ある意味じゃあこの穴に一緒に落ちたのがお前と俺で良かったかもしれん。
弟じゃあ、きっとどうにも出来なかったと思う」
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