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心配させては男が廃るとばかりに、メイドが俺の事では悩まないで良いように、合わせて不幸中の幸いと思い込むようにそんなことを口にする。
どうやら俺の話は効果があったようで、メイドは目に見えてハッとして、「確かに坊っちゃんが落ちなくて良かった」と、随分な膨らみを持ったメイド服の胸元に手を当て、俺に関しては落ち込むのは止めた。
ただ、俺は自分からそんな話を振っておいて、メイドが弟とは言えど他の男の事を心配するのが、面白くない。
勿論、弟を心配する気持ちは俺も同じで、穴に落ちなくて良かったと思う。
今までだったら、何においても俺は可愛い弟第一だった筈なのに、半分以上がこの面白くないという感情が締めようとしている。
俺は自分がこんな狭量だったのかと、ため息を1つついていた。
※
俺は現状、非常に気まずい思いをしていた。
その気まずい状況を説明するというのなら、俺の目の前に実に光輝く眩しい顔がある。
勿論光輝くなんてのはいう表現は比喩でもあるんだが、単純にいってしまえば顔が良い。
眉毛が個性的ではあるんだが、それを含めても本当に顔が良いと思う。
しかも、それが自分が使用人の仕事として世話を焼いている坊っちゃんのお兄様で、年齢は同年だから気まずいものが更に増す。
働かせて貰っている屋敷の方針というか、使用人を含めて全員が、家族のような形の職場なので、御兄様にも御名前もあるのだが、皆が一番幼い坊っちゃんの立場や価値観に合わせて"御兄様"呼びをするのが暗黙の了解とされていた。
だから、神父殿の紹介で使用人の新参者の俺と後輩もそれにならって、御兄様呼びをすることになる。
雇い主の旦那様と奥様を除けば、皆が御兄様と呼ぶのに特に支障をきたすことなんてないんだが、唯一つ俺だけが同年代となるので、内心では何だか呼びづらいというものがあった。
そして、それはどうやら"御兄様"も同じ様で、1人で庭掃除をしている時に呼び止められて、"御兄様"の呼び方について、どう思うと尋ねられたので寸の間迷って、正直に理由も合わせて「同年であるから呼びづらい」といったのなら、件の眩しい笑顔を浮かべて、実は俺もなんだ、苦笑で告げられる。
それで、だから、と少しだけ躊躇いを見せられたのちに、「同年なのだし、名前で呼んでくれないか」と言われて、俺は使用人の立場もあって今度は確り迷っている内に、尻の部分に衝撃を受けて思わずつんのめったが、神父殿の教会で死ぬ気で鍛えた体幹で揺れるに止まった。
合わせて、その正体も分かるので、思わず「坊っちゃん」と呼びかけながら振りかえる。
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