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小さな夢
「歌、うまいね」
ジャングルジムのてっぺんに座って歌っていた俺は、声がした方をみた。大きなスケッチブックを持った女の子がこちらを見上げている。髪が肩ぐらいまでの長さで、なんだかオシャレな雰囲気がした。
「あ、こ、こんにちは。」
女子と話すのなんて緊張する!
「卒業式の歌?私の学校のとは違う。」
女の子はそう尋ねてきた。
「あれ?朝川小学校じゃないの?」
「私は隣の学区の緑丘小学校だよ。」
「なんでわざわざこっちの公園にきてるの?あっちの方がもっと大きい公園あるだろ?」
「こっちの方にしか絵画教室なかったの。授業が始まるまでここでのんびりするのが好きなのよ」
「絵を習ってるの!?」
俺はびっくりした。ジャングルジムからおりてその子の隣に並ぶ。
「将来、絵を描く仕事がしたいって言ったら、ママが今のうちから絵を習わないとって絵画教室に通わせてくれたの。」
えっへんとでもいうように女の子は胸をはる。
「へぇーすごいね」
「あなたの歌もすごいじゃない、卒業式の歌だよね。」
「そうだよ。俺は歌を聴いたり歌ったりするのが好きなんだ。いつかは自分で歌を作りたいと思ってる。」
俺は初めて自分の夢を誰かに打ち明けた。友達の夢はみんなサッカー選手やら警察官やらで、歌に興味あるやつなんて1人もいない。
「わー素敵な夢ね!」
と女の子は褒めてくれた。
「でも友達はみんな、歌なんか授業の練習で充分だって言って、放課後は誰かの家に集まってゲームしてるんだ。ま、俺は卒業生として恥ずかしくない歌を歌いたいからさ、こうして練習してるわけよ。」
「えらいね!…あれ?同い年か!私も来週卒業するの。」
「そうなんだ!中学校は同じになるのかな。俺は南原中学校。」
「私は美術部が有名な星宮女子中高一貫校にいくの!」
「中高一貫…って受験したのか!」
俺は驚いてひっくり返りそうになった。同い年でもう受験か…
「えへへ…あ、そろそろ行かなくちゃ!歌の邪魔してごめんね!」
女の子はよいしょっとスケッチブックを抱え直すと手を振った。
俺はなんだかこのまま別れちゃうのが惜しい気がした。歌も絵も同じ芸術だ。仲間ができたみたいな気分だ。
「あ、あの、きみってまたここにくる?」
「もちろん!だってすぐそこの絵画教室に通ってるんだもん!ほぼ毎日ね!」
「俺もこの公園でよく歌を歌ってる。よかったらまた…な、なんて呼べばいいかな」
俺は緊張してボソボソとしゃべってしまった。
「ふふ、私のことはリーフって呼んで!」
「…え?なんで?本名じゃないよね、それ」
「最近活躍してる作家さんや歌手はみーんなペンネームで活動してるのよ。そういうのあこがれない?」
「なるほどね…んーと、じゃあ俺は…ネオン!本名を少し変えたんだ。俺はこれからネオン!」
「ネオン!いいペンネームじゃない!私たち、ちょっと特別な友達って感じ!」
リーフがふふふと笑う。俺は少しくすぐったいような気分になった。自分の特別な名前ができて嬉しい。
「じゃあね、ネオン!」
「またな、リーフ!」
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