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木村さんと会うことが多くなった。
美術専攻は何かと課題が多くて忙しいらしいが、時間が合えば一緒に過ごした。
「私ねー小説読んで情景の絵を描いたり、友達のイメージに合わせて花と一緒に描いてあげたりしてるの。楽しいの!」
木村さんは楽しそうにいろいろ話してくれる。
「へぇー」
なんだか、中学生の時のあの子を思い出す…リーフのことを。
「歌も?歌のイメージの絵も描くことある?」
ちょっと聞いてみた。
すると木村さんが一瞬悲しそうな顔をしたのを、俺は見逃さなかった。
「ううん、歌はしないなぁ。なんか歌はイメージ出来なくて…」
「そうか…」
なんだか最近木村さんを見ると心臓がドキドキする。恋?いやいや…女性と話し慣れてないせいで緊張してるんだ。
でもやっぱり、恋、なのかもしれない…
夏休みに入ったある日、俺は木村さんに招待され、美術室にいた。
絵を描いているところをみたいと言ったら、みせてくれることになったのだ。
朝の涼しい時間、大きなキャンバスの前で木村さんがうなっている。
「うーん、課題は『思い出』ってテーマなんだけど、何描くかな…」
俺は五線譜をかいて音符をかきながらその様子をみている。絵をテーマにした歌が作りたかったのだ。
なんだかこの時間が懐かしく感じた。2人きり。お互い声を出さず、好きなことをする時間。
お昼のチャイムがなった。
「そろそろ休憩するか」
と俺はキャンバスに向かっている木村さんをみて、息がとまった。
「そ、それは…」
俺は立ち上がって絵に近づく。
「この公園ね〜昔住んでたところに近くてお気に入りだったの〜」
あの公園だ。俺があの子…リーフと会っていた公園。
このカラフルなジャングルジムのてっぺんで歌の練習してた。あの古ぼけたベンチでリーフが絵を描いていた。そして、初めてみたリーフの絵で、リーフが描いていたあのピンク色の梅の木…
「…懐かしい」
「公園って懐かしく感じるよね〜。大人になると行かなくなるし」
うんうん、と木村さんが頷く。
木村さんはリーフなのか?いやそんな偶然が…
でも絵を描くのが好きという共通点が…いやでも絵を描くのが好きな女性はたくさんいるし…
でもあの公園…いやたまたま似た公園があったとか…
なんだかぐるぐると考えてしまった。
その日は夕方まで絵を描く木村さんをみていたが、作曲に集中出来なかった。
そしてリーフとの約束を思い出した…
家に帰るとすぐリビングに直行した。棚に置いてある小さな箱をあける。中学の合宿部の後輩にもらったキーホルダー、自分の生まれ年の硬貨など、ごちゃごちゃと小物が入っている。そして…小さく折り畳まれた紙を見つけ出して取り出す。
「この初めて作った歌…リーフに絵を描いてもらうんだったな…」
そう、そうだ。リーフに絵を描いてもらってこの歌は完成するんだ!
1番最初に作った歌が完成してないから、その後作った歌も、完成してない歌を差し置いて作ったという気持ちから中途半端に感じたのだと思う。
棚の隙間に隠してあるように収めていた絵を取り出した。中学校に入学した日の夕方、リーフと2人で描いた絵だ。この絵も俺が描いたからこそ完成したとリーフは言っていたな…
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