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その後も木村さんがリーフかもしれないと思いつつ、違ったらどうしようと確かめられずにいた。その間に木村さんに対する想いが強くなってしまった。
そうして秋になった。大学祭の時期だ。俺たちにとっては学生最後の大学祭。
俺は作った曲をギターで弾き語りをすることになった。
「小川が1番歌作るのうまいよな!」
「きっとモテるぞ〜!」
仲間に口々に言われてちょっと照れる。
木村さんも絵の展示があるらしくて忙しそうだ。
「なーなー、木村さんに告白しないのー?」
優斗に聞かれた。
「うん、実はちょっと考えてて…」
「ほぉ〜!ついに!…あ!でも忘れられない子がいるんだっけ?」
「そうだけど…」
俺は木村さんに告白しようと思う。リーフかもしれないという思いもあるが、やはり木村さんと話していて楽しいし落ち着く。なんだか懐かしい感じがするのも、彼女がリーフだからなのか?
大学祭当日、俺たちは忙しくも楽しく充実した日をすごした。
最終日である2日目に、弾き語りをした時、両親もきていて、恥ずかしかった。遠くで木村さんの姿をみて、張り切ってしまった。
その夜、片付けが終わると遅い時間になっていた。打ち上げに行く学生も多く、学校は昼間の混雑がウソのように静かになった。
俺は木村さんに連絡をとった。
『お疲れ様!美術室にいる?1人?』
『1人でいるよ〜あと少しで片付くよ〜』
『今から行っていい?手伝うよ』
『ありがとう!待ってるね!』
俺は急ぎ足で木村さんがよく使うという第三美術室に向かった。
「お!お疲れ様〜!歌聴いたよ〜うまいね〜。切ないような懐かしい感じがする歌声だったよ〜」
「ありがと!木村さんに褒められるのが1番嬉しい。…いろいろと手伝うよ」
俺は近くにあった散らばったパンフレットやチラシをまとめた。
「ありがと!段ボールをまとめて紐でくくってくれる?」
「おっけー!」
黙々と作業した。木村さんは絵にカバーをかけている。
しばらくして作業が終わった。美術室の鍵を返して一緒に外へ出た。
芸術大学に1つはあるだろう、庭に置かれた謎のオブジェ。梅の木をモデルにした銅像らしい。そこまで来た時、俺は口を開いた。
「ちょっといい?」
「んー?何かな」
俺はもじもじしたが、思い切って言う。
「す、す、好き…です。」
「…」
木村さんが黙ってしまった。
「…好きな人がいるの…もう中学の時に別れた子なんだけどね、忘れられないんだ」
木村さんが困ったようにいう。
「実は俺も忘れられない人がいて…でもその人を超えて木村さんを好きになってしまった。そして気づいたんだ…リーフ」
俺は思い切って懐かしい名前をだした。
「なんでその名前を…悲しくてもうその名前は使わないようにしてたのに…」
木村さんの声が揺れている。泣いてしまったんだ。俺が泣かせた…
「小川くんがネオン?ネオンってこと?」
「うん…俺もその名前はずっと使ってない。大事な思い出の名前だから。」
「なんで分かったの?」
「あの公園の絵を描いてるのをみて… 話してたらなんだか懐かしい感じもする時があった…」
「私も小川くんの歌声聴いて、懐かしく感じたのよ…まさかネオンだったなんて。」
木村さんは完全に泣いてしまった。
「なんで公園に来なくなったの?待ち合わせはしてなかったからあんまり責められないんだけど…待ってたのよ…」
「ごめん…リーフの合宿とか引っ越しの準備が重なって…なかなか会えなかったね。引っ越しの当日、最後に車から公園が見えたんだ…待っててくれてありがとう…ごめんね。」
俺は精一杯謝った。
しばらく沈黙が続いた。
「ちょっとごめん。今日はごめんね」
木村さんは走って行ってしまった。
「夜は1人じゃ危ないよ!」
と追いかけたが、あっという間に見失ってしまった。一応メッセージでまた謝ったが、返事はなかった。夜がふけていく…
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