交わる道

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交わる道

冬が近づく。卒業にむけて忙しくなってきた。木村さんとは距離があいたままだ。 続けていた就職活動も終わりをむかえる。とある会社に内定をもらった。4月から新人サウンドクリエイターだ。ゲーム音楽を作曲したり、効果音を作ったりする仕事だ。俺自身の歌制作は趣味でやろうと思っている。今の時代はだれでもネットにオリジナル曲を投稿できるからな。 卒論発表が終わり、そろそろ帰ろうと外へ出る。この地域では珍しく、雪が降ったので少し積もっている。溶けかかって滑りやすい。庭の梅の木オブジェは1年中花をつけているので、梅の花に雪が粉砂糖みたいにうっすらかかっていてきれいだった。 思わず見とれていると、誰かが近づく足音がした。そのまま俺の隣で止まった。通り過ぎないことを不思議に思い、隣をみると木村さんだった。 「小川くん…ネオンが初めてみた私の絵は梅の木だったね。」 「そうだな。すごくきれいで記憶に残ってるよ。」 俺は木村さんに向き合う。 「今日私も卒業制作の発表だったんだ。小川くんもでしょ。いい結果が残せた?」 「まぁなんとか。就職も決まったし、あとはバイトでやってる編曲活動の依頼をこなすかな。」 しばらく沈黙が続いた。気まずい。 思い切ったように木村さんが話し始める。 「ごめんね長く避けちゃって。小川くんがネオンってなかなか受け入れられなくて。突然公園に来なくなってショックだった。どんな歌を聴いても楽しくなかった。やっぱりネオンの歌が好きだから。」 「それに関しては本当にごめん…」 「もう謝らないで。自分の気持ちがわからなくなってたの。私、あの時ネオンが好きだった。ラブレター代わりの絵を描いて待ってたの。でもあなたは来なかった。」 そうか、両思いだったのか。 「それからいろんな人に告白されても、ネオンのことが忘れられなくて断ってる。そろそろ忘れてもいいでしょって思うけど、やっぱり心のどこかでいつかまた会ったら…って思っちゃって」 俺も似たような感じだった。リーフが忘れられず、誰とも恋ができず… 「それで小川くんと出会った。なんだか初めて会ったような感じがしなくて…不思議な気持ちだった。気づいたら…好きになっていた。でもネオンを思い出して、やっぱり好きになれないってなって…」 「でも俺がネオンだった。俺も最初はリーフって気づかなかったよ。」 「好きになっちゃいけないって思ってた時に小川くんに告白されて…ネオンだって分かって。このまま付き合っちゃえって思う自分と、あの日置いていかれたって怒りもちょっとあって、感情ぐちゃぐちゃよ」 といって木村さんは笑った。気持ちを整理するのに時間がかかったのだろう。 「このまま卒業してまた会えなくなったらあの頃と一緒じゃないって思って、あなたを探してたの。」 木村さんはちょっと恥ずかしそうにこちらを見上げてくる。 「わ、私もあなたが好き、です…」 お互い顔が真っ赤になる。 俺はポケットから小さく折り畳まれた紙をとりだした。 「それは?」 「俺が1番最初、中学1年生の時に作った歌。これをリーフに聴いてもらって、リーフに告白しようと思ってて…」 言ってて恥ずかしくなり、えへへと笑う。 「残ってたんだね…私がイメージイラストを描くって約束した…」 「そう!覚えててくれたんだ!」 「当たり前じゃない!すごく楽しみにしてたんだから!」 木村さんの顔が明るくなった。 「今からでも遅くない?頼んでいい?リーフの絵があってこそ、この歌は完成するんだ。」 「もちろん!描くわよぉ!」 2人で大きな声で笑った。
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