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この日からよく木村さんと話すようになった。大学内で一緒に過ごすことが多くなった。
優斗と3人で遊びに行くこともあった。といっても3人とも課題やバイトで忙しく、数回だけだが。
俺はだんだんと木村さんに惹かれていってる、気がする…気づけば彼女を目で追っていた。こんな気持ちになるのは久しぶり…
いつの間にか優斗がいなくなっていて、2人きりになっていることもあった。動揺したが、なんとか平静を保つ。かわいい…2人きり…い、いやいや!俺はあの子がまだ好きなんだよなぁ…
俺の動揺をよそに、木村さんはニコニコとおしゃべりを続ける。優斗が一緒の時ってこんなに喋ってたっけ…?
しばらくすると優斗は戻ってくるのだが、やたらにやにやしているのでちょっと腹が立つ。
ある日、木村さんと授業のない時間が重なる時があることがわかった。2人で会うことにした。俺は授業がある優斗と別れ、待ち合わせした庭のベンチに向かった。しばらくすると木村さんが小走りでやってきて、手を振ってくれた。
「楽しみにしてたよ、早速歌を聴かせてくれるなんて!」
彼女は嬉しそうに言う。
俺は録音した自作の曲をいくつか彼女に聴かせた。
「これは大学に合格して、やったー!ってなって勢いで作っちゃったんだ。」
俺は説明した。
「すごいね!歌が作れちゃうなんて。いつ頃から作り始めたの?」
木村さんは興奮しながら聞いてきた。
「初めて歌を作ったのは中学1年生の時かな。あの歌が1番よくできたなーって思う。」
「へぇー!聴いてみたいなぁ。まだ残ってるの?」
「あぁ…うん。メモした紙どっかいっちゃったかなぁ…」
「そうかぁ…残念」
木村さんは歌を聴き終わると今度は私の番!と言って絵を見せてくれた。
風景画、花の絵、動物や人物の絵…どれもきれいで、好きな感じ。見てるとなんだか懐かしい気分になる…子どもの頃、仲の良かったあの子を思い出すから…
絵を見ながらたまにチラッと木村さんの顔をみる。好き、か…しかし、完全には好きという気持ちにはなれない。やっぱりあの子が忘れられないのだ。
「…小川くん?」
木村さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
顔が近い!ドキッとして飛び上がってしまった。
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。」
俺は顔を背けてしまったが、謝った。顔が赤いのがバレたくない。
「熱中症?水分しっかりとらないとね」
…顔赤いのバレてる?
「そ、そうだね、涼しい室内に入ろうか。」
俺はそう言って立ち上がった。ひんやりした室内に入る。
「よぉ、おふたりさん。」
授業が終わった優斗と合流した。
「天崎くんお疲れ〜」
木村さんは優斗とも気軽に話す。なんだかちょっと嫉妬…してないしてない!
木村さんは友達との約束があると行ってしまった。
その姿をぼーっと見送っていると優斗が声をかけてきた。
「好きになっちゃった?」
「ち、違うって!…いや、でもなぁ」
俺は頭を抱えてしまった。
「認めちゃえよ〜」
にやにやと優斗が言ってくる。
「忘れられない人がいるんだよ…」
「え!初耳〜」
「中学生の時に挨拶も出来ずに俺が転校しちゃったんだ…」
「そうかーうんうん。でもそろそろ新しい恋に踏み出そうぜ!」
「うーん…」
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