遺された約束

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私の初めての彼は、私と次のデートをする約束をした一分後には彼ではなくなっていました。 原因は車の脇見。泣いて、泣いて、哭いて。 最初は慰めてくれていた友人も家族も、次第に呆れて何も言わなくなっても泣いて。 泣くのをやめた頃には、今度はあんな約束をして先にいなくなってしまった彼が、なんだか憎くなってしまって。 おかしいですよね? 私もそう思います。でも、そう思わないとやっていけないって、あの時の私は考えてしまっていました。 それでも、彼がどうしてもと言っていた日に、予約していたホテルに行きました。 全てが辛かったし、憎かったし、意味なんてないと思っていました。 ただそれ以上に、私は約束を破るのが嫌いでした。 それに、彼のご両親も「キャンセルしていないから行って欲しい」と言うのだから仕方ありません。 あの日の約束を自分だけは守ろうと決めて、高級ホテルに似合わないTシャツにジーンズで。 それでもドアマンもフロントマンも、笑顔で接してくれてなんだか申し訳ないことをしたと思いました。 そうして案内されたのはホテルの一室。突然電気が消されて、正直驚きました。 暗闇の中から現れたのは、向かいのビルを使ったプロポーズの言葉でした。 枯れたはずの涙がまた溢れ出してきて、私は床に崩れ落ちました。 どれほど時間が経ったでしょう。ベルボーイが電気を点けて、哭く私の元に膝をついて肩を叩きました。 「すみません。もう行かないといけませんよね」 そうだ。ホテルの人にとって、これは仕事の一環。あまり長く付き合ってもらうものでもない。 しっかりして、涙をとめなさい、私。 そう考えていると、ベルボーイは「大丈夫ですよ、大丈夫です」と言ってくれました。声を震わせながら。 思わぬ反応に振り返ると、ベルボーイもベルガールも涙を流していました。 「こちらは、お預かりしていたお品物です。このようなことになり大変残念ですが、本当に、素敵な男性でした。僭越ながらお願い申し上げます。どうか、思い出は大切になさってください」 ベルボーイは、相変わらず声を振るわせながら、手のひらサイズの箱を渡してきました。 中身は想像に難くありませんでした。 ◆◆◆◆ あれから五回目の秋を迎えて、私は夢だった出版社での仕事に就きました。 薬指にあの日の約束を付けて、今日も生きています。
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