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──あいつの事だからきっと「今宵は月が奇麗ですね」とか言うんだろうな。
モニターの前で秋場潮雄は立ち上がった。
午前二時。
月明かりが照らす閑静な住宅街。
監視カメラの映像には猫の子一匹映らない。
もっとも野良猫などほぼ絶滅しているのだが。
どんな手段を講じても奴からは逃げられない。こんな監視カメラなんかで見つけられるものかと、ある意味信頼している。
そして、逃げる為に見張っているのではない。待っているのだ。久しぶりに会って話がしたいと。
動きの無いモニターの監視なんて、退屈な事はもうやっていられない。
カジュアルな外出着にも使える最新の防弾スーツを着込み、小さなバッグに銃を一丁。
半径1キロ以内の動くモノ全てを捉えるレーダーゴーグルを装着。
だがこんなものはついでだ。
頼れる武器はちゃんとこの手にある。
さあ来るなら来いと電子煙草を咥えた。
恐くもあり、楽しみでもあり。
『悪意ゼロ%……敵意ゼロ%……殺意ゼロ%……安全です。
いってらっしゃいませ、マスター』
それ自体が危険を察知する防御壁であるロボットドアが軽快に開き、秋場が車の指紋認証ドアに手を伸ばした時。
──ボッ──
白い閃光が走り、口にくわえた煙草のスティックだけが吹き飛んだ。
ビー・ビー・ビー……
ゴーグルから警戒音。時既に遅し。
「ちえっ、役立たずばっかりだぜ」
ゴーグルを外して放り投げる。
「お久しぶりです。Dr.秋場。
良い月夜なので、貴方にお会いしたくなりましてね」
銃を右手に闇の中から現れたのは、黒いスーツの背の高い痩せた男。
黒い帽子を取り頭を下げると、長い黒髪がはらりと踊る。
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