28人が本棚に入れています
本棚に追加
その声はスネイクの後ろ、あらぬ方向から聞こえた。
「俺も子供の頃、ひっくり返ってねだったのさ」
「しまっ……」
そこに立つもう一人の秋場が手にした銃から赤い光線が発射される。
スネイクが自身のミスに気づいたのは、その首が地面に落ちる時だった。
「何度か実験したんだがな。
首と体を切り離して別々に再生すると、しばらくはどっちも俺として動けるんだ。
でもそのうちに、やっぱり本物の頭の方が俺になるのさ」
「研究熱心ですね、流石はDr。
あの時、地面に落ちた頭部を破壊しなかった私の完敗です」
「……なあスネイク。
本当の不老不死であるロボットのお前には分かって貰えないかも知れないが……」
秋場は首だけになったスネイクにバッテリーを繋ぎながら語りかける。
「トーラの神の溜息を創った時に、あいつが言ったのさ。
『私は自分の人生に満足してるの。
だから私にはそれを使わないで。
そうだ、私が死ぬ時、神の溜息もバハワヒ島の夕陽に溶かして欲しいな。約束よ?』
これがトーラと最後に交わした約束だ」
「……生きていればこれからもっと良い事があるかもしれないのに。
いいえ、例え何も無くても私がお守りする。
トーラ様に生きていて欲しい。
……私は間違っているのですか?」
「いや。俺だって本当はトーラに生きていて欲しいさ。でもな……
お前がついててくれて、あいつは間違いなく幸せだった。断言してやる。ありがとうよ」
秋場はバッグからトーラの神の溜息を取り出してスネイクに見せた。
「……ああ……何と美しい……!」
「なあ。綺麗だろう?
でもな、どれだけ金や時間があっても複製出来ないものが……
複製出来ないからこそ、いいものってあるんだよ。
俺が言うのも何だがな」
「この国が無くした、味噌汁の匂いの様な物ですかね……
Dr、貴方が言うからこそ説得力があると言うもの。
これで用事は終わりました。バハワヒ島へはご一緒させていただきます」
「もちろんだ。お前はあいつを生涯守り抜くと約束したんだろう?」
戦いが終わり。
愛した女性を想う二人の男の溜息が、ただ静かに夜空へ溶けていった。
≪完≫
最初のコメントを投稿しよう!