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「やあ、相変わらず二枚目だなスネイク。
昔のヒーローは弾丸よりも速いなんて言ってたらしいが、まさかセンサーよりも速いとはな。
これなら猫でも用心棒にした方がましだ」
にこやかに話しかける秋場。
「確かに偉大なヒーローも猫には手を出せないでしょうね。
だが、今では変身の為の電話ボックスなんて物は博物館にもありませんよ」
スネイクと呼ばれた男も気さくに返す。
しかし、右手の銃は真っ直ぐに秋場に向けられている。
「なぜ今の一発で俺を行動不能にしなかった?」
「不意討ちは好みではありません。貴方こそ、なぜ警官隊を配備しなかったのですか?」
「警官隊がかわいそうだろ、給料安いんだから」
「なるほど。ところでお優しいDr、こんな夜更けにどちらへ?」
「バハワヒ島さ。お前も一緒にどうだい?
気が変わってハイジャックをしない様に、銃はワインセラーにでもしまっておくがいい」
「おお、21世紀の自然を今に残す最後の楽園ですか。それは最高のバカンスだ。
用事さえ済めばこの銃と共にボディーガードとして是非ご一緒したい」
「空気からして花やフルーツの薫りがするそうだ。なあ、我らが日本の空気は今でも味噌汁の匂いがするのかな?」
「さすがにもうそれはないでしょう。
古き良き時代の象徴、惜しい気もしますがね。
しかし今、私が一番惜しく思うものは……
貴方と10年前に別れた私の主人、今夜にも消えそうなトーラ様の命です……!」
飄々としたスネイクの言葉に力が入る。
その目はメタルの銃よりも月明かりを弾いて鋭く光り、秋場を射抜く。
「なあスネイク。
俺は今年で85歳、トーラは88歳だ。
そろそろだな……」
──ボッ──
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