軍師の嫁取り 5~戦の前に誤算あり~

3/12
前へ
/12ページ
次へ
「そうか、そうか、それも良し」 と、司馬徽(しばき)は、言った。 前には、神妙な顔をした、劉備が座っている。 「先生は仰られました」 「確かに」 「では、その通り行えば、私は……」 「さて、その通りに行くかのぉ?すでに、(おこ)なってみたが、なぜか、どうにもならぬと、私の所へ来たのじゃろう?」 図星だけに、劉備は、小さくなった。 「優れたか、どうかは、知らぬが、そなたが気に入っているのなら、武は、もう、よかろう。足りぬのは、知恵、学を持って、そなたを、助ける者……」 「先生、つまり、先生の仰られるところの、伏竜鳳雛(ふくりゅうほうすう)を備える者ということですね……」 うん、と、司馬徽は、頷き、 「座っていても、出会いはないぞ?」 と、劉備を伺う。 確かに。何度、こうして、師の元へ通おうと、望みは、叶うことはない。自らが、立ち上がり動かなくては、言葉通り、出会える者とも、出会えない。 「はい、今度こそ、良く分かりました。先生、何度も、お訪ねして、申し訳ありません」 「いやいや、こちらも、話し相手が、いるというのは、良き事よ」 では、と、劉備が立ち上がり表へ出ようとしたところ、部屋の戸口で、男と鉢合わせた。 「やっ!こ、これは、申し訳ございません!ご来客中だったとは!」 「どうした、徐庶(じょしょ)よ?」 あー、お客様のようなので、またー、と、徐庶は、言い渋り、踵を返そうとするが、自身と鉢合わせた男に、おおっーー!と、声を上げた。 「そうか、そうか、(ぬし)の、(あるじ)をみつけたか」 はははと、司馬徽は、笑う。 「いや、それは、また、先生も、お人が悪い、その様な冗談を、いきなり。しかも、劉備様の前にて」 「じゃが、主も、そろそろ、仕官をと、望んでいるのじゃろ?これも、何かの縁ではないかのぉ?」 司馬徽の、妙な言い回しに、劉備は、もしやと、思う。 正直、着古した衣を(まと)う、地味な男であるのだが、才と、見た目は、異なるものだ。 故に、出会いの時が満ちるのを待たねばならぬと、そうすれば、自然に、この者だと分かると、師は、言っていた。 望むものは、そう、簡単に手に入らない。そして、時がある。 その、時、を待てるか否か、で、全ては決まる。師は、そう、言ったのだ。 ──つまり、前にいる男が。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加