軍師の嫁取り 5~戦の前に誤算あり~

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「黄夫人?なんだか、表が騒がしいですねぇ?」 「ほんとですわねぇ。旦那様は、気にせずに、お休みくださいまし。そもそも、夜もまともに眠らず、考え事をしていれば、調子も悪くなりますよ」 うーん、そうですけど……と、昼間から床についているのは落ち着かないらしく、孔明は、夜具の中で、モゾモゾと動いている。 「やっと、お熱が下がったのですからね?今日は、横になっていてください!」 はい、分かりましたと、聞こえる返事は、どこか、不満げだ。 「これくらい。が、命取りになるのですよ!旦那様に何かあったら、私は、この歳で、未亡人になるのです!そして、髪が、赤いだ、黄色だ、色黒だ、醜女だと、また、言われた挙げ句、再婚させられるのですから!」 そ、それは、困ります!その若さで、未亡人とは!いけません、いけませんよ! と、孔明は、興奮しきっているが、当の黄夫人こと、月英は、あら?と、首をかしげて、耳を澄ませていた。 「おかしいですわね。表が、騒がし過ぎます。まるで、怒鳴り合いの喧嘩……それも……」 童子だわ!私、見て参ります!と、月英は、表へ向かおうとするが、 「あっ、旦那様。くれぐれも、おとなしくしておいてくださいましよ」 と、孔明へ釘を指すと、何なのかしら?と、そのまま駆け出して行った。 「何を小癪なっ!」 「ああ、我らに、難癖をつけるつもりかっ!」 月英が、表へ出ると、童子が鎌を振り上げ、うるせぇー!この、賭場荒らしめがっ!さっさと、失せやがれっ!と、啖呵を切り、その、横で、均が、はらはらしていた。 童子に、絡まれているのは、ふさふさとした髭と、どんぐり眼の大男達だった。 「こちとら、お前らに、いつも、荒らされて、頭にきてんだよっ!おう!いつだって、父ちゃんと、若い衆を呼んでくるぜっ!」 「何を生意気な!この、ガキめがっ!」 「ははは、呼べるものなら、お前の親父(おやじ)とやらを、呼んで見ろ!こんな、人里離れた村の外れに、誰が来るかっ!」 「はい、分かりました。父を、呼べば、よろしいのね?そこの、ふさふさ髭に、グリグリ目玉さん?」 ふさふさ髭に、グリグリ目玉と、呼ばれた男達──、関羽と張飛は、はっと、息を飲む。 美しいとしか、形容できない女が、現れたのだ。 「そ、そちは、何しに?」 と、張飛が、月英へ近づこうと前へ出る。 「こらっ!張飛!動くんじゃねぇ!門の中へ入ってくんなっ!」 と、童子が。血相を変えて、鎌を振り回しながら、張飛へ、向かって行こうとする。 「童子や、おやめ。父上を、呼べば、この、ならず者も、大人しくなるわ。ねえ?違いまして?」 月英は、笑みを浮かべ、張飛を見た。 それは、いつもの、目のやり場のない、妖艶なものではなく、明らかに、見下した、軽い笑いだった。 とはいえ、その、突き放した感が、また、男をそそるというか、色気が、何やら、増している。
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