16人が本棚に入れています
本棚に追加
怒鳴っていた、張飛は、見とれながら、のう、そなたは、などと、月英を、口説こうとした。
「ふふふ、私ですか?その前に、そちらの名を名乗られたら?いやだわねぇー、童子や、常識のない男って」
これ!いい加減、その辺にしないか。と、張飛と関羽を叱咤する者がいる。
「こちらの、侍女と見受けられるが、我らは、客人。ただ、先生に、ご挨拶に参ったまで。何故、このような扱いを受ける?すまんが、先生に、取りついでくれ」
その一言に、場は、一瞬にして、静かになった。
「おー!さすが、我らが兄じゃ!」
「これ、張飛、静かにせぬか。やっと、あれらが、だまったのだ」
「バカをお言いでないっ!」
月英が、にやけている客人とやらに向かって吠えた。
「あー、もうー、だから、ここは、中途半端なのよ!誰が手にするわけでもなく、のほほとした州牧が、何がなんだかわからない、者を招き入れ。あー、まったく!叔父上と、来たら!」
「確かに……なんですか。まったく、ひどい。従者が暴れているにも関わらず、ずっと、放置、私的には、かなりの失望です……」
と、おろおろしていた、均は、側で、涙目になりながら、呟いている。
「ほら、言われてますわよ、劉備様」
おい!と、張飛が、月英を、怒鳴り付けた。
「ったく!何が、おいだ!この、目玉野郎がっ!ちょっとは、黙りなっ!この、すっとこどっこい!てめーが、絡んでる女、誰だと思ってんだよっ!!」
ふふふ、とか、色気をふりまいていた女が、いきなり変貌した。
関羽までが、目を白黒させるといった具合で、張飛も、言葉が出ない。
「……随分な言われかたよ。こちらは、子供に鎌を振り回されて、こらえているのだ、それが、わからぬのか!」
劉備が、いきり立つ。
しかし、月英も、負けていない。
「まったく、あなたは、人というものがわかっておりませんね。それも、戦で、必ず、世話になる、名士の扱い方が、まるで、なってない!よって、曹操、孫堅、その他、諸々に、遅れを取り付け、あちらこちらと、ふらつくしかないのだっ!」
「女!もう一度、言ってみろ!」
劉備が、怒鳴った。
その後ろで、関羽と張飛が、せせら笑っている。
「ええ、何度でも、と、言いたい所、が、バカらしくて、言うのも惜しいわっ!しかし、ここで、引けば、話にならぬ!!よろしいか!耳の穴かっぽじって、よーく、聞きなされ!我が父は、黄承彦、そして、その妹は、あんたが、たかってる、州牧の妻、なんだよっ!」
なんと!と、叫び、渋い顔をする劉備へ月英は、止めを刺した。
「あたい達を、怒らせたら、どうなるか、あんたが、一番わかってんだろ?えっ?」
劉備は、先程の勢いは、何処へと、尋ねたくなるほど、蒼白な面もちになり、たじろいだ。
「さすがです!」
童子が、歓喜の声を上げる。
「い、いや、義姉上私も、なんだか、すっとしたのですがっ!」
と、月英の発した啖呵に、涙目だった、均も、顔をほころばせている。
「と、言うわけで、あんたらは、童子に、鎌を振り回されるほど、招かれざる客ってわけだ、さあ、どうする?」
ちょっと!黄夫人!
と、孔明は、焦っていた。
表の余りの騒がしさに、戸口から、こっそり覗き見してしまったが、これは、どうすれば良いのやらと、力がぬけた。
ここで、表へ出ていけば、床を抜け出したと、きっと叱られるだろう。そして、騒ぎを止めに入ったら、それは……、考えるだけで恐ろしい、と、孔明は思い、大人しく自分の部屋へ戻ったのだった。
妻を怒らせると、ああなるのか、と、啖呵を切る月英の姿を思い出した孔明は、何故か、震いに襲われた。
「はあ、なんだか、寒い、何故だろう?」
歯をカチカチ鳴らしながら、孔明は、掛布の中へ潜り込み、ぶるぶると、震えた。
体調のせいなのか、それとも、見てはならないものを、見てしまったからなのか、孔明には、分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!