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「おととい、きやがれ!」
こうして、鎌を振り上げる童子に、劉備一行は、追い返された。
「いったい、なんなのだ……」
「なんと、口の立つ女。見かけは、良いのに!」
劉備の後ろでは、関羽と張飛が、ブツブツと、文句を言っている。
が、──。
「お前達、賭場荒らしを行っているのか?」
執拗な童子の様子が、劉備は、気にかかった。
子供に鎌を振り上げられるとは、いったい、何事だろう。関羽も張飛も、羽目を外しすぎているのだろうか。
そして、あの女に、言われた事といい……、何が、起こったのか、そして、何が、他の武将達と、異なるのか……?
劉備は、ほとほと、困り果てていた。
あの女が、まさか、自分達を客将として、もてなしてくれている、劉表の身内とは……。
しかし、そのような、立場の女を侍女としている、諸葛亮という人物は、やはり、ただ者ではない。
これは、腹を決めなければ……。
「お前達、今後は、外出を控えなさい。子供に、馬鹿にされるようでは、先生には、相手にされぬ」
あ、兄じゃっ!!
馬鹿にされて、黙っておるのか、あれは、さんざんではないか、と、関羽も張飛も、かなり頭に来ているようで、劉備へ、食ってかかって来た。
「わからんのかっ!」
これ、なのだろう。あの、女の言ったことは、義兄弟と契りを結んだ二人は、武の腕はかなりのもの。
しかし、人望がまるでない。
それは、自分にも言えることではなかろうか。
あの女が、正しいのか。それとも……曹操や、他の名を連ねる武将が、正しいのか。
遅れを取りすぎているのが、分かっているから、こうして……。
なのに、傷口へ塩をすりこむようなことをされて、劉備は、ほとほと参った。
だからこそだ。
「お前達、何をブツブツ言っておる。暫く、鍛練に、励め!もし、ここで、敵襲に合ったならどうする?」
「ははは!我に、負けなし、じゃ!一声で、蹴散らせて見せますぞ!」
「もちろん、私も、太刀をひと振りいたしましょう」
二人が揃えば敵なしだと、関羽と張飛は、劉備の焦りなど、気がつく訳もなく、豪語する。
「……そうか、わかった」
二人の腕は、確かなものだ。しかし、余りにも、甘く考えている。
劉備は、暗くなる前に、と、帰路を急いだ。
その頃……、月英も、困り果てていた。
どうした事か、孔明は、高熱を出していた。それなのに、誰も近寄らせようと、しないのだ。
「……ああ、大丈夫。私のことは、ご心配なく」
言っているが、ガタガタ震えて、顔色も、しごく悪い。
「致し方ございません!」
月英は、孔明を、実家へ連れて行くと言い出した。
ここには、医者もいない。
薬草だけが頼りなのだが、それも、庭で摘んできたような類いのもの。それでは、治るものも治らない。
「熱が高すぎて、震えがでているのでしょう。とりあえず、暖かくして……童子、荷馬車の用意をして。里へ行きます!」
あちらへいけば、医者も薬もある。
栄養のある食べ物も、すぐ、手に入る。
何より、人手がある。
「そうですね、それが、一番だと思いますが、義姉上、移動に、兄がもちますでしょうか?」
心配そうに、孔明の様子を伺いながら、均が言った。
せめて、熱がもう少し下がるまで、何とかならないか、または、自分が街へ行き、医者を連れて来ようかと。
今、動かすのは、どうも。と、均は言い渋る。
「ええ、そうですね。でも、熱がさがらなかったら?」
月英は、それしかないのだと、言い張るばかりで、まるで、余裕が見られない。
「あー黄夫人、落ち着いてください。発熱があるということは、体が、十分に反応しているということ。体を温めて、発熱を助ければ、結果的に、熱が下がります。童子や、葛は、あるかね」
「あっ、はい。旦那様、葛湯ですね!」
童子は、孔明に、言われたまま、葛湯をつくる為、裏方へ下がった。
「兄上、では、仕舞ってある、火鉢を出しましょうか?少し、炭を焚いて部屋ごと暖めますか?」
「均様!そんなことをしたら、部屋の中が、真夏並みになってしまいますわよ!それに、葛湯なんて、赤子の食べ物みたいなもので、旦那様の具合が良くなるはずは!」
「黄夫人、確かに、即、元気にはなりませんが、まだ、こうして喋る体力もあり、葛湯でも飲んでみようかと思える気力もあるのですから……大丈夫ですよ」
一旦、様子を見させてくれという孔明の言葉に、月英は、渋々、従った。
「で、でも、街へ出かけられそうになったら、すぐに、医者へ!」
ここだけは、譲らない妻に、孔明は、素直に、はい、と、返事した。
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