軍師の嫁取り 5~戦の前に誤算あり~

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「おととい、きやがれ!」 こうして、鎌を振り上げる童子に、劉備一行は、追い返された。 「いったい、なんなのだ……」 「なんと、口の立つ女。見かけは、良いのに!」 劉備の後ろでは、関羽と張飛が、ブツブツと、文句を言っている。 が、──。 「お前達、賭場荒らしを行っているのか?」 執拗な童子の様子が、劉備は、気にかかった。 子供に鎌を振り上げられるとは、いったい、何事だろう。関羽も張飛も、羽目を外しすぎているのだろうか。 そして、あの女に、言われた事といい……、何が、起こったのか、そして、何が、他の武将達と、異なるのか……? 劉備は、ほとほと、困り果てていた。 あの女が、まさか、自分達を客将として、もてなしてくれている、劉表(りゅうひょう)の身内とは……。 しかし、そのような、立場の女を侍女としている、諸葛亮という人物は、やはり、ただ者ではない。 これは、腹を決めなければ……。 「お前達、今後は、外出を控えなさい。子供に、馬鹿にされるようでは、先生には、相手にされぬ」 あ、兄じゃっ!! 馬鹿にされて、黙っておるのか、あれは、さんざんではないか、と、関羽も張飛も、かなり頭に来ているようで、劉備へ、食ってかかって来た。 「わからんのかっ!」 これ、なのだろう。あの、女の言ったことは、義兄弟と契りを結んだ二人は、武の腕はかなりのもの。 しかし、人望がまるでない。 それは、自分にも言えることではなかろうか。 あの女が、正しいのか。それとも……曹操や、他の名を連ねる武将が、正しいのか。 遅れを取りすぎているのが、分かっているから、こうして……。 なのに、傷口へ塩をすりこむようなことをされて、劉備は、ほとほと参った。 だからこそだ。 「お前達、何をブツブツ言っておる。暫く、鍛練に、励め!もし、ここで、敵襲に合ったならどうする?」 「ははは!我に、負けなし、じゃ!一声で、蹴散らせて見せますぞ!」 「もちろん、私も、太刀をひと振りいたしましょう」 二人が揃えば敵なしだと、関羽と張飛は、劉備の焦りなど、気がつく訳もなく、豪語する。 「……そうか、わかった」 二人の腕は、確かなものだ。しかし、余りにも、甘く考えている。 劉備は、暗くなる前に、と、帰路を急いだ。 その頃……、月英も、困り果てていた。 どうした事か、孔明は、高熱を出していた。それなのに、誰も近寄らせようと、しないのだ。 「……ああ、大丈夫。私のことは、ご心配なく」 言っているが、ガタガタ震えて、顔色も、しごく悪い。 「致し方ございません!」 月英は、孔明を、実家へ連れて行くと言い出した。 ここには、医者もいない。 薬草だけが頼りなのだが、それも、庭で摘んできたような類いのもの。それでは、治るものも治らない。 「熱が高すぎて、震えがでているのでしょう。とりあえず、暖かくして……童子、荷馬車の用意をして。里へ行きます!」 あちらへいけば、医者も薬もある。 栄養のある食べ物も、すぐ、手に入る。 何より、人手がある。 「そうですね、それが、一番だと思いますが、義姉上(あねうえ)、移動に、兄がもちますでしょうか?」 心配そうに、孔明の様子を伺いながら、均が言った。 せめて、熱がもう少し下がるまで、何とかならないか、または、自分が街へ行き、医者を連れて来ようかと。 今、動かすのは、どうも。と、均は言い渋る。 「ええ、そうですね。でも、熱がさがらなかったら?」 月英は、それしかないのだと、言い張るばかりで、まるで、余裕が見られない。 「あー黄夫人、落ち着いてください。発熱があるということは、体が、十分に反応しているということ。体を温めて、発熱を助ければ、結果的に、熱が下がります。童子や、葛は、あるかね」 「あっ、はい。旦那様、葛湯ですね!」 童子は、孔明に、言われたまま、葛湯をつくる為、裏方へ下がった。 「兄上、では、仕舞ってある、火鉢を出しましょうか?少し、炭を焚いて部屋ごと暖めますか?」 「均様!そんなことをしたら、部屋の中が、真夏並みになってしまいますわよ!それに、葛湯なんて、赤子の食べ物みたいなもので、旦那様の具合が良くなるはずは!」 「黄夫人、確かに、即、元気にはなりませんが、まだ、こうして喋る体力もあり、葛湯でも飲んでみようかと思える気力もあるのですから……大丈夫ですよ」 一旦、様子を見させてくれという孔明の言葉に、月英は、渋々、従った。 「で、でも、街へ出かけられそうになったら、すぐに、医者へ!」 ここだけは、譲らない妻に、孔明は、素直に、はい、と、返事した。
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