8、蜜月

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それは、婚姻届、だった。 でもただの婚姻届じゃない。 まず目に飛び込んで来たのは、そこに貼られていた、少し右上がりになるのが癖の懐かしいお兄ちゃんの字に、ヘタクソな似顔絵が添えられた色褪せた付箋。 そこには、 "渓になら、翠をお嫁にあげる♡" と書いてあって。 急いで婚姻届を広げてみれば、"証人"の欄はお兄ちゃんと佐和さんの、"夫になる人"の欄は渓くんの署名と捺印ですでに埋められていた。 それを見た途端、またあふれ出す涙。 ……お兄ちゃんも佐和さんも渓くんも、こんなのいつの間に書いていたの……。 拭っても拭っても涙があふれてきて、婚姻届が滲んでしまう。もっと、ちゃんと目に焼き付けておきたいのに。 ゴシゴシと涙を拭う私の手をそっと掴み、代わりに渓くんが私の頬を濡らし続ける涙を優しく拭ってくれる。 「蒼と佐和からはもうとっくの昔に許可をもらってる。蒼が亡くなっているからこの婚姻届に法的な効力はないが、お前がオレを選んでくれるなら一生お前を幸せにすると蒼に誓うために、オレの欄も6年前に埋めてある。だから翠も、書いてくれないか?」 渓くんの紡ぐ言葉にもう胸がはち切れそうで、私はこくこくと頷くのが精いっぱい。
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