6. 一緒に行ってみない…?

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―――陽太郎くん…って!? あの??  薫は飛び起きた。    何で、いきなり家電(いえでん)…?? いつもはSNSのメッセージなのに。  歩きながらも心臓がばくばくする。    薫は震える手で受話器を取った。 「…あの。薫です」 『久しぶり。突然ごめん。こっち帰ってたから、直接かけちやって』 「あ、いえ…」 『母から聞いたんだけど…、薫くん、医学部受けるんだって?』  そんな情報、どこから…。  たぶん、北川病院に掛かったうちの親族なんだろう…けど。まったく、プライバシーも何もあったもんじゃない。  まあ、でも、陽太郎さんなら。 「あ…、はい。そのつもりです」 『どの辺の大学を受けるつもりか、聞いていい…?』 「えっと、あの…陽太郎さんの大学、です」  動機が動機なだけに、直接本人に言うのは恥ずかしい。 『え、ホント?』 「はい…。もちろん、これからの成績次第…ですけど」 『そうか! うちの大学か…』  そうか、と陽太郎がうれしそうに繰り返すから、何だかこそばゆい。 『じゃあ、合格したら、来年の春からまた俺の後輩になるんだね』 「…はい」  追いかけている。いつまでたっても追いつけないけれども。 『そうだ。薫くん、明日、時間ある?』 「えっ…」 『塾とか?』 「…あ、お盆中は休みなんで、大丈夫ですけど」 『せっかくだから、うちの大学、見に行かない? 俺が車出すから。高速ならそんなに時間かからないし。一緒に行ってみない…?』  息が止まる。  え。何、これ。突然。あり得ない。 「…え、でも。陽太郎さん、忙しいんじゃ……」 『お盆は暇だよ。バイトもないし、うちの実家はお盆だからって親戚が集まるとかもないし。薫くんのとこは?』 「うちも、特には…」 『勉強のスケジュールが狂ってしまうとか、嫌なら断ってくれていいよ』  思わず首を振る。 「いえ。それはないです、大丈夫です。けど、なんか、申し訳ないというか」 『薫くんが後輩になるかも、なんて聞いたら、何かしてあげたくなるのは当然でしょ? どうする…?』    戸惑いとうれしいが渦巻いて、電話の横に貼ってあるカレンダーの数字を意味なく目で追う。  うちの大学、見に行かない?  一緒に行ってみない…?  何かしてあげたくなるのは当然でしょ?  どうする…?  陽太郎さんに、そんなこと言われたら。  答えは一択しかないじゃないですか。 「…お願いします」 『じゃあ、明日…そうだな、10時ぐらいに迎えに行くよ』 「ありがとうございます。…よろしくお願いします」  電話を切って、自分の部屋へ駆け込み、ベッドへダイブした。  嘘だろ。嘘みたいだ。  陽太郎さんが、陽太郎さんの車で、大学へ連れて行ってくれるって……そんなこと、本当にあり得ない。  でも。  ふと、気づく。  明日は、陽太郎さんと二人きり…だ。    気持ちにしっかり鍵を掛けて、心の奥底に沈め、昔と同じように”弟”の立場をわきまえて。  変に意識したりしませんように。…なんか、意味なく赤面とかしそうで怖い。気持ち悪がられたら、どうしよう……。  薫はベッドでうずくまり、頭を抱える。  大学を案内してくれるだけだし、たぶん、さっと行って帰ってくるだけだから、大丈夫だ。  きっと、大丈夫だ。  いくら手綱をきつく引いても、暴れ馬のように浮ついた気持ちは、勝手に跳ね出しそうだった。
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