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悪夢は現実か。
あの日、あの人はたしか、こう言っていたはずだ。
「お前さ、本気で思ってたわけ?俺と付き合ってるって。」
そして、学ランに着られた中学男子はこう、返したはずだ。
「え?先輩、何、言ってるんですか?」と。
それは、8月のある日のことで、その年で一番暑いと言われる日で、そして、地面を強く雨が打ち付ける日だった。
まるで、今日のように。
荒い呼吸音と窓を打ち付ける雨の音が、この狭い6畳の洋室に響いている。
この部屋の主、柳井 蒼汰は、荒い息を上げながらベッドの上から飛び起きた。
「ハア、ハア。」
荒い息と鼓動の早すぎる心臓の音が、鼓膜を支配していることに気が付いて、思わず心臓のあたりをギュッと掴んでいた。
掴んだ右手からドクドクと、心臓の鼓動が流れ込んでくる。
それはまるで、全速力で短距離を走り抜けた時のような感覚と似ている。
次第にその鼓動がドク、ドクと、不快なリズムから心地良いリズムに切り替わって、ようやく柳生は、当たりを見回すくらいの余裕が出てきたところだ。
右手をいつものポジションに戻すと、見えて来たのは灰色のルームウェア。
それは明らかに今日、柳生がベッドに入る前に着替えたものだったが、汗が染み込んで随分と灰色が濃くなっているそれは、ほとんどが黒に近い色を映し出している。
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