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暁 side
「…から、……!」
「で………らが……」
なにやら2人で言い争っている声が聞こえる。
目を開けると、白い天井。周りはカーテンで囲われている。
「ここはどこだ?」
そう口に出すと、争いの声が止み、カーテンが開けられる。
「目が覚めたか?」
そう言って顔を覗き込むのは右京だ。
「…今何時だ?」
「9時ぐらいだ、どうした?何かあったか?」
「すまない、丸つけがまだ終わっていない」
もう授業が始まってる時間じゃないか。ベッドから降り立ち上がろうとするが、そのまま落ちる。
「おい!ばか、お前倒れたんだぞ。無理に動こうとするな、丸つけなんて暇そうな保健医にやらせておけばいいんだよ。ほら、ベッドに戻れ」
「…立てない。」
起き上がろうにも力が入らない。やばい、泣きそうだ
「ど、どうした?!九条!どうすればいい?!」
焦っている右京を見てさらに申し訳なくなる。頬を伝うものを抑えることが出来ない。ずっと気を張っていた。他の役員たちには迷惑をかけられないし、みんなの期待に応えたくて、絶対良い歓迎会にしたくて、でも結局倒れてしまった自分が情けない。頑張っても迷惑をかけることに変わりはなかった。
「退け、有馬。邪魔だ。」
低くて威厳のある声が聞こえる。この学校の保健医 九条 辰巳だ。右京とこの学校で学生生活を共にしていた。
「アキラ、お前は少し無理をしすぎだ。なんの為に俺らが居ると思ってる?その涙が俺たちへの謝罪の涙ならもう泣くな。だが、お前の気持ちを整理する為の涙なら存分に泣け。俺が受け止めてやる」
床に沈むおれを抱き上げてベッドにもどし、そう伝え頭を撫でてくれる辰巳。
「すまない、恩にきる」
そう言うと最後におでこをペちっと叩かれる。涙はもう止まっていた。
「九条、大丈夫なんだろうな?」
邪魔だ、と言われて横に退いていた右京がちらっと心配そうな顔を覗かせる。
「栄養失調に寝不足、過労。こんな状態なら精神的に不安定になるのも仕方がない」
おれの今の状況が言語化される。言われてみると、ご飯抜いてたかもしれない。
「暁、気づいてやれなくて悪い。それに余計な仕事までさせようとしてた。生徒の体調不良に気づいてやれないような教師が言っても信用が無いかもしれないが、困った時は頼ってくれ」
「ふたりともありがとう。誰にも相談せずにひとりでやらないと、って思っていたせいで皆からの期待を勝手に重圧にしてしまっていた。右京と辰巳に頼れるのに優る安心はない」
自然な笑みが溢れる。だんだん身体にも力がみなぎってきたような気がする。
「あ、あと。さっき泣いた事は内緒にしてくれ、3人の秘密だ、頼む」
ちゃんと口止めしとかないとな。恥ずかしいし。
「はは、九条も知ってるっていうのが気に食わないが、そうだな。暁が言うなら内緒にしておいてやるよ」
右京が笑いながらそう言う。
「こっちのセリフだ、そもそもアキラを最初に見つけたのは俺なのに邪魔してきやがって」
「ああ?!ンなもん関係ねぇよ!」
「おい、病人の横でデケェ声出すな。アホ」
…このふたりは仲が悪いのか?よくわからないが、ふたりとも笑顔なあたり仲の良し悪しより先に信頼関係があるんだろう。少し羨ましいな。
「もう大丈夫だ。心配をかけてしまい申し訳ない…いや、心配してくれてありがとう」
そう言い直すとなんだか少し心が軽くなった気がする。
「よし、じゃあ生徒会室に戻るとするか」
そう言って戻ろうとすると両肩を掴まれる。
右肩を右京、左肩を辰巳にだ。なんだ?
「お前は当分生徒会室出禁だ。生徒会担当の俺が出禁にする。そんな権利なくてもする!」と右京が、「アキラ、もうしばらくここに居ろ」と辰巳が。
「いや、もう良くなったから大丈夫だぞ?」
「大丈夫じゃない、俺がそう決めた。に言いつけんぞ?」
「それは…よくない」
蓮は少し心配性なところがある。もうだいぶ昔のことだが、ちょっと無茶した時が大変なことになった。あまりあの蓮には会いたくないな
「俺は教室に戻るぞ。九条も今から会議らしいからひとりだがちゃんとイイ子にしてろよ?」
「わかった、じゃあ…少しだけ休む。久遠に知られたら最悪だ」
そう言ってドアに向かっていた足の方向を変えてベッドに戻る。右京と辰巳は満足気に頷き、保健室から出ていった。
「………誰に知られたら最悪だって?」
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