嵐の来訪

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「ええ、それで?」 「おれ、なにもできなくて、」 「怒ってませんよ、落ち着いて。先生が来て会長を助けてくれたんですね?」 丁度部屋を出ようとドアノブを握った時、不意にポケットの中のスマホが震え、着信を知らせる。 相手は同じ生徒会仲間の書記、千だった。 慌てた様子の千を落ち着かせ話を聞くと、どうやら会長が倒れてしまい、そこに先生が現れ保健室まで連れていってくれたと。 なるほどー。これは有馬×会長フラグか? もしくは保険医×会長、いや会長×保険医? 会長が倒れた。それは一大事、とんでもない事だ。それでも私はこの気持ちを抑えられない。 会長は元々容姿端麗、文武両道、それに加えて天然、と最強の布陣でした。リアルにこんな人間がいるのかと。初めて見たのはもう二年前ですが、その時に受けた衝撃は昨日の事のように思い出すことができます。今は182cmと男だらけのこの学園でも高身長の部類に入る立派な体躯で身長だけでも目立っていますが、高等部に入った時はまだ170cmと私とそう変わらない身長でした。顔つきも今と比べれば幼かったです。にも関わらず、圧倒的な王者の風格があり、ルビーのような爛々とした赤い瞳は写るもの全てを従えさせるような雰囲気でした。口を開けば声変わり後の低い声。それも、上に立つ者だという芯が滲み出ており、その姿を視界に入れてしまったが最後、誰もが会長の虜になっていった。誰もが会長とお近づきになりたいと思っていました。(例外はいましたが。) 当時の私は奇しくも会長と同じクラスでしたが、親同士がビジネスの関係にあるだけで特に関わりはありませんでした。 ある日の放課後、普段しない忘れ物を取りに教室に戻ると、何やら話し声が聞こえました。2人以外の気配はしなかったので、ははあ、告白だな。とアタリをつけた私は、邪魔をするのもどうかと告白が終わるまで教室の前で待つことに決めたんです。ですが、中の様子が気になって、チラッ、と教室を覗いてみると、中には会長ともう1人が向かい合って話をしていました。もう1人(名前は存じ上げない方でした。仮にチワワとしておきます。)、チワワは顔を真っ赤にしていて、必死に何かを話しています。対して会長は相手をじっと見て静かに話を聞いていました。 「好きです、神宮様。付き合ってください、とは口が裂けても言えません。あまりにも烏滸がましいから。だから、どうか。一晩だけ、お相手をさせていただけませんか?」 「…………………ああ、そういうことか。別に構わない」 返事を聞き、チワワは本当ですか?!と喜んだ様子を見せたのですが、それも束の間。 「すまないが今日はうちの執事とやることになってる。明日でもいいか?」 このセリフを聞いた途端、有頂天のテンションは地獄の果まで落ちたようで。 「執事?神宮様ッ!執事とヤってるんですか?!」 「ああ、ほとんど毎晩、相手をしてもらってる。執事(ヤツ)がいちばん強いんだ」 「執事と肉体関係を持ってるなんて…!!」 「………肉体関係?」 「今更隠さなくてもいいです!毎晩相手してもらってるんでしょう?!」 「…………ちょっと待ってくれ、稽古の話じゃないのか?」 「へ?」 「いや、武道の稽古の話じゃないのか?」 「…ち、ちがいますッッ!」 チワワは自分だけ夜の話をしていた事に耐えられなかったようで、羞恥のあまり顔を林檎のように真っ赤にさせていました。 「お前、顔が赤いぞ?ここに来た時からそうだったが。熱があるのか?」 「いいえッ!ありませんッ!神宮様、今のお話は忘れてください…!また改めてお声がけさせていただきます…!」 そう言って私がいる場所とは違うドアから弾丸のように飛び出していきました。 この現場を見て私は思ったんです。会長ってすっっっごく勘違いされてるんだ。爛々としている瞳は常に好奇心が溢れている印。低い声に宿る芯は威圧ではなかった。同時にこうも思いました。神宮 暁 を育てたい。私好みにしたい。 そもそもの容姿はパーフェクト。それに加えて模試では全国1位を。たしなむ程度だというスポーツで大会に参加すればメダルを持って帰ってくるようなこの男。 天然なんて可愛らしい要素を見せるのは仲間(みうち)だけで十分だ。 かっこいい"生徒会長"を育てよう。王道男子校に出てくるような、俺様生徒会長を。 私の(王道での)最推し、俺様生徒会長なんです。 今まで生きてきた、そしてこれから生きていく人生の中で最強で最高の推しを見つけられる、いや、自分で育てることが出来るなんて。こんな名誉はありません。 ワクワクしてきました。とりあえず神宮 暁が会長になるのは確定事項として、私は副会長の座にのし上がらねばなりませんでした。まずは分岐先である朱羽家を虹羽族の本家にするところから始めようと思いました。国内一の会社の御曹司相手に下請け会社の倅が相手になれるとは思えなかったので。 今の私がそのまま2年前の入学式を迎えていれば会長の次に大騒ぎだったでしょうが、私はだいたいのことはそれなりにできたので何かひとつの事に対して本気で取り組んだことがなかったのです。ただ、目標を決めた私には向かうところ敵無し(会長は除く)でした。見事に目標を達成し、副会長という地位を手に入れ、会長をオレサマに化けさせることに成功しました。 今の会長は私が育てたと言っても過言では無いのです。 そんな会長が倒れた。 そんなの、そんなの、、そんなの……!! 滾っちゃうじゃないですかぁぁぁ!!!! 絶対BL展開に巻き込まれているはずです! 今は保健室だと言っていましたね。向かいましょう! 「よくわかりました、伝えてくれてありがとうございます。私が会長の様子を見てくるので千は会長の仕事を可能な範囲でいいので捌いておいてください」 いざ参らん萌の聖地・保健室! 副会長side
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