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 インドカレー屋は駅から十分程度のところにあった。看板は黄色く、赤い文字で店名が書かれている。店内に入ると、むっとスパイスの香りが鼻を刺激した。席は八割方埋まっている。インドなのかネパールなのか、南アジア出身と思われる店員が二人席に案内してくれる。  メニューを開くと、色とりどりのカレーが目に入った。ナンはおかわり自由らしい。 「やっぱりバターチキンカレーがいいかな。あとマンゴーラッシー。弥生は?」 「俺も。」  注文が通ると、俺は秋廣を見つめた。 「秋廣さんは学生ですか?」 「うん。大学に通ってるよ。三年生なんだ。」  秋廣は俺の二つ上の年齢だ。  秋廣の父親が逮捕されたとき、秋廣は母親と一緒に夜逃げした。東京に親戚がいたので頼ったという。しかし、いつまでも居候するわけにはいかず、半年後、郊外にアパートを借りた。 「母さんが仕事を見つけてがんばってくれて。ばたばたしていて現役では間に合わなかったけど、浪人して大学に進学したんだ。」 「大変だったんですね……。」 「大変だったのは母さんだね。本当に頭が上がらないよ。今は新しいパートナーを見つけたから、複雑だけど、まあ……嬉しいよ。」  秋廣が東京に引っ越したあと、連絡先を知っている知人から大量にメッセージが届いたらしい。ほとんどが何があったのか、大丈夫なのかというものだ。秋廣は何と返せばいいのかわからず、面倒になったため、すべて消去したそうだ。
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