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「四月頃、酒飲んで俺の家に泊まったときにさ、お前が寝言を言ってたよ。何回も。『秋廣さん』ってな。」 「えっ?」  初耳だ。どうして言わなかったのだ。 「言うわけないだろ。馬鹿か。」 「馬鹿って……。」 「めちゃくちゃ調べた。でも苗字がわからないから特定できなかった。それでさ、この前のライブのとき……偶然お前とアマリの会話、聞いちゃったんだよ。」  あのときは秋廣と話すのが精一杯で周りのことは気にしていなかった。 「あ、これが秋廣さんかって。嫉妬した。お前が一心に見つめ続けてる奴はこいつかって思ってな。」  大地はふぅ、と息を吐くと、身を乗り出して言った。 「話したかったら、秋廣さんの話聞いてやってもいいぞ。まあ、話さなくてもいいけど。」  意外だった。大地は軽薄で、自分のことしか考えていないと思っていた。体の相性がいいから、恋人になってほしいと言うのだと思っていた。まさかこいつが、そんなに俺について考えたり、嫉妬したりしているとは。  大地が言ったことは本当だ。俺はずっと秋廣の幻影を追い続けていた。 「いいのか?その……無神経に思わないのか?」  これまで大地に気を遣ったことはない。今更無神経も何もないだろうと俺は心の中で自嘲する。 「うん。普通に気になるし。」 「……いずれ、話してもいいか?今は……整理がついていなくて、うまく話せないと思う。」 「そう?じゃあ、何か食べにいくか。腹減ってなくても無理やり食えよな。」  大地は冗談めかして笑った。  俺と大地以外誰もいない小さな教室には、ブラインドの隙間から七月の眩い陽光が差し込んでいた。
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