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「そろそろ出たほうがいいかもな。」
「え?ああ、そうか。」
ベッドから降りて、洗面所に干していたTシャツを手に取った。Tシャツは湿っていた。気持ち悪さを感じながらも頭から被る。顔を上げると、三面鏡の右端に縦に入ったひび割れが、俺を二つに割いていた。
一日の人間摂取量が限界値を超えた。大地とは別々に帰りたい。
「寄るところがあるから先に帰っていいぞ。」
ソファに腰かけたまま着替えている大地に、声を張って言う。
「どこに行くの?付き合うけど。」
いいから早く帰れ。
「付き合ってもらうような場所ではない。」
「そうかぁ。……大事なこと言うの忘れてた!さっきのバンドの話だけどさ、今度ライブがあるんだよ。来てくれ!」
「ライブ?いつ?」
訊くと、パンフレットを置いておくよと大地は言った。
「それじゃあ、また大学でな!」
大地は洗面所の入り口に来て手を振った。俺も適当に手を上げる。
ふと気付いて、そういえば金は、と言いかけた。しかし、時すでに遅し、ばたんとドアが閉まった。その音に腹が立った。明日、英語の授業で会うはずだ。絶対に請求してやる。
洗面所から出て部屋中央のローテーブルを見ると、いくつか吸い殻がのった灰皿の横に、パンフレットが置いてあった。バンドか、とひとりごちる。あの人は今でも、ギターを続けていたりするのだろうか。
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