(八・二)ゼットンフォーラム4

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(八・二)ゼットンフォーラム4

 ここはゼットンフォーラム本部の奥の間、一般信者立ち入り厳禁の教祖室である。ブースカ仏会への破壊活動について幹部連中を呼び出し、状況報告を聞く佐谷教祖。 「例の件、問題ないやろなあ。いよいよ明日、クリスマスやぞ」 「はい、万事抜かりありません」 「おーし、それは結構大いに結構。諸君、何度も言うがこれは聖戦であーる、からして失敗なんぞ絶対に許されない、心してやってくれ給え」  酒も入って佐谷は上機嫌。気の緩みか幹部相手についうっかりと、バルタン協会のトップシークレットをば漏らしてしまうのである。それはブライダル布教に関する事実であり、マリリンの話を裏付けるものでもある。 「それにしても、あのバルタン協会、相変わらずあくどいわい」 「と申しますと」 「ん、例のブライダル布教の件よ」 「ああ、あの信者同士の結婚、しかも日本女性を貧困国の男とくっ付けるとかいう」 「その通り」 「嫁ぐ先は遠くアフリカ、南アメリカ、東南アジアだとか。幾ら信仰とは言え、良くまあ行くものですねえ」 「それがよ、どいつもこいつもいい歳こいた娘共が、マザーテレサみたく貧しい国の人々を救いたいだとか何とかって、やったらご立派な理想に燃えて自ら志願する訳よ」 「成る程、マザーテレサですか。それはまったくお目出度い。まさに平和ボケ、じゃない、信仰の鏡ですな」 「まったく、その通りよ。と言いたいところだが、成る程女の信者たちは信仰の鏡かも知れん。ところがどっこい」 「何か」 「ああ、その実態たるや、恐るべし……」 「恐るべしって。嫌ですよ佐谷様、そんなニタニタなさって」 「聞きたいか」 「そりゃ、聞きたくないなどと申せば、嘘になります」 「良ーし、では話して聞かせよう。バルタン協会のブライダル布教、その謎に満ちたる実態とは」 「実態とは」 「じゃーん、世界の裏で暗躍する闇のネットワークによる、人身売買」 「人身売買、そんなまさか」 「まさか、まさかのそのまさか。大和撫子、オリエンタルドールの魅力は今も昔も変わらない、世界中の男共を虜にして止まぬ可憐なる憧れの華。後進国を経由して、実はまんまと先進国富豪の手に渡るのであーる」 「うそー。でもどうやって」 「いいか、先ず花嫁がアフリカならアフリカのどっかの国の国際空港に、たったのひとりで降り立つであろう。そしたら待ってましたとばかりにインターポールの名を騙った連中が取り囲み、そなたは不法入国であると、とっとと身柄を拘束する訳よ。そこは見知らぬ異国、だーれも助ける者などいる筈もない。女ひとりで抵抗など無理無理、後は拉致監禁、そのまんま何処へとも知れず連れ去られるのみ。後は時と共に世界からその存在を忘れ去られゆくのである」 「何と、まあ。でも流石に大人の女でしょ、何かの隙に逃げ出すこともあるのでは」 「勿論、そこは抜かりない。逃げられないよう、とっととシャブ漬けにして、セックスだけが目的の廃人に仕立て上げるって寸法よ」 「うわーっ、な、な、何と恐ろしや。それでは丸で鬼畜外道ではありませんか。我らゼットンフォーラムなど、足元にも及びませぬなあ」 「まさにその通り。俺様なんざそれが嫌で、あそこ脱退したようなもんなんよ」 「ほんとですか、佐谷様」 「ま、それは冗談、置いといて。ついでにもひとつ、教えて進ぜようかな」 「え、まだ何か。わたくしも一応は聖職者の端くれ。あんまりえげつないお話はご勘弁」 「ならぬ、ならぬ、良ーく聞け。なーに、これぞ究極の洗脳テク」 「洗脳テク、何ですか、行き成り」 「ん。バルタン協会の『祝福』って知ってっか」 「はあ、噂位は」 「よし、来年からうちでもやろうと思ってんだ、あれ」 「あれって、そんなに簡単に出来るもんなんです」 「だってよ、実はあれ、何を隠そう、俺様が発案者」 「ええっ、流石、佐谷様。じゃなくて、どういうことですか発案って。だってあれって人智を超えた一種の奇蹟なんでしょ、何でもバルタン協会の信者の耳に聴こえる有難い神のお告げだとか」 「わっはっはっはっは。な訳ないであろう、何が神のお告げなものか。そんなもんが簡単に人の耳に聴こえてどうするよ。あれにはな、ちゃんと最新テクノロジーを駆使した仕掛けがあんのよ」 「仕掛け」 「ああ、良ーく聞け。簡単に原理を説明するとだな、あたかもレーザー光線の如く空間の或る特定ポイントに狙いを定め、光を放射するが如くに音声信号をば流すって訳よ。言わば透明な携帯電話システムのようなものであーる」 「成る程、そう言われるとなんか簡単そう。では是非我らがゼットンフォーラムでもやりましょうよ、ね。さすれば信者は我らの思うがままの奴隷状態。これで教団は大発展間違いなし」 「ん、その通り。来年はお互い良き年になりそうだのう、わっはっはっはっは」  などと下らない妄想に現を抜かしつつ、聖職者の仮面を被った邪悪な輩どもの夜は更けてゆくのである。
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