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「そっか……ごめん。いいよ、一人で帰るわ。……ありがとうね」
それだけ言うのが精一杯で、今になって何とも言えない後悔が襲う。
自転車に跨がってペダルを踏み込もうとすると、将太はパッとカゴを掴んだ。
「今、16だから……4年後?20歳になったら……一緒に酒でも飲むか?」
「え?」
「美嘉の誕生日の方が遅いから11月……それまでには友達に戻れるようにしとくから。今は連絡もしない……悪ぃ」
将太はそれだけ言うとゆっくりカゴから手を離す。
「わかった。じゃあね」
「おう、気ぃつけてな」
いつもと変わらない言葉なのに、将太の声に元気がないだけでこんなにも苦しく聞こえるなんて。
「……ごめん」
自転車を漕ぎながら小さく呟いた。
振り返ることもできず、ただひたすら唇を噛んだままペダルを漕ぎ続ける。
自分から別れを告げたのに将太の顔が頭から離れない。
今まで聞いたこともなかったあの低い声も、握り締めていた手に浮かんだ筋も。
いつもクラスで一緒に騒いで、部活でも休憩時間は一緒にボールをぶつけ合った将太。
卒業と同時に告られて付き合ったけど高校は別で、「俺が会いに行く!」って毎朝駅に向かう前に私の高校まで遠回りしてくれた将太。
「うちら今、高2だよ?再来週は将太の誕生日じゃん。……4年もないよ。……すぐ、会えるよね」
やたら風が強く感じて、オレンジ色の空に吐き出してみる。
答えなんてなくて、ただ向かってくる風に押されて自転車もなかなか進まなかった。
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