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グラスを握ったまま首を振ると、「伊藤のデマかよー!」と将太は仰け反って少し笑う。
「……ねぇ、まだ、私のこと好き?」
「は?おま……」
「ずっとこうやって会えるの楽しみにしてたんだけど、私……」
一気に言って、口を挟んできた将太の声にもカブせて言い切る。
「そんなん……俺……」
将太は言いにくそうにして……そのまま黙った。
「勝手だってわかってるけど……将太のこと忘れられなかったの。誰と付き合ったって……あの日の将太ばかり思い出してるの」
将太は何も言ってはくれなくてグラスを持つ手が緊張で震える。
「……ごめん。勝手過ぎたね」
彼女でも居たかな?
笑ったフリをしながらこれでもう吹っ切ろう、と自分に言い聞かせた。
「美嘉……」
将太は座り直して姿勢を正す。
「俺は……まだ好きだ。そんなん……吹っ切れるかよ」
困ったように微笑んだ将太の目線が逸れてテーブルに落ちた。
「私も……」
「本当に?」
言いかけた私の言葉を遮って、将太はこっちをしっかりと見る。
まっすぐなその目。
私でさえ見えていないものまで見透かすような将太の薄い茶色の瞳。
「本当だよ。ずっと忘れられなかったから……」
「でも、それさ……恋じゃないだろ?」
「え……?」
グラスの中の氷が溶けてカランと鳴ったその音がやけに大きく聞こえた。
「美嘉は付き合う前の……友達で居たあの頃に戻りたいだけだろ?」
「違……」
「本当に?」
悲しげな将太の目を……私はまっすぐ見つめ返すことができない。
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