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別れ
「……ごめん、別れよ」
抱き締めてきた将太からそっと離れたのは私。
「は?……何で?」
震えていたあの声はまだ耳に残っている。
「何か違う気がするんだよ」
「はぁ?」
「一緒に居るのは楽しい!……でも、やっぱり将太とは友達で居たい」
将太は静かに床を睨みつけていた。
「……何だそれ。……嫌いになったとか、他に好きな奴できたならまだしも……」
力のない呟き。
「ごめん」
「謝んな。……余計虚しくなる」
将太はクルッと背を向けて閉じていた窓を開けた。
入ってきた風が通り抜けて将太の髪も揺らす。
「……送るわ」
いつものように少し茶色い前髪を掻き上げることはなく、将太はさっさと部屋から出た。
中1で初めて出会った時から今日まで一度もなかったただの沈黙。
バカみたいに笑っていた将太から私は笑顔もあの明るさも奪ってしまった。
何も言わずにいつも通り、少しだけ勉強をしてキスをすればよかったのだろうか?
そうすれば、まだ将太は笑っていたのだろうか。
やけに遠い背中を見つめて、なぜか私が泣きそうになる。
「……将太、友達には戻れない?」
自転車に鍵をさしてから様子を窺うと、将太はギュッとスラックスを握った。
「……無理だろ。俺はまだ気持ちあるし。しばらく連絡も……高校違ってよかったわ。会わなくて済むから」
泣きそうな顔で何とか笑う将太。
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