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小林さんは、中国地方のとある村の出身で、大学進学を機に上京してきたそうだ。
彼の実家は村有数の名家で、本家だの分家だの、少しややこしい血縁関係があった。
小学校の同級生にも、分家の親戚が何人かいたりしたほどだ。
ちなみに、小林さんは本家筋の長男にあたる。
そんな彼が生まれ育った家は、お屋敷と呼べるほど大きく、敷地はかなり広い。
その広い庭の片隅に、ちょこんと、一体の地蔵が立っていた。
見た目は何の変哲もない、ごくごく一般的な地蔵。
それを小林さんの家族や親戚は皆、「身代わり地蔵」と呼んでいた。
まだ彼が幼かった頃、その由来をお祖母さんに尋ねると、
「あんの地蔵様はな、怪我や病気をしたときに、その痛みを代わりに受けてくれるんよ。じゃけん、イタズラなんて罰当たりなこと、したらいけんよ」
そう答えた。
言われなくても、小林さんは地蔵に対して、イタズラをする気などなかった。
いや、なんとなく、近づきたくなかった、という。
その地蔵の前に立って目を合わせると、なんだか、睨まれているような気分になるのだそうだ。
なので小林さんは、できるだけ地蔵に近づかないようにして、生活していた。
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