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小林さんの家には、ある決まりがあった。
それは、彼のお祖父さんの命日である8月18日。この日の夜だけは外泊を許されず、実家で夜を明かさなければならない、というものだ。
その決まりの対象は長男、つまり小林さんと、そのお父さんのみである。
理由は教えられず、それが当たり前のこととして、彼は育った。
実家で暮らしているうちは、そんな決まりなど気にならなかったのだという。
ただ、上京してしまうと話が別だ。
大学生にとって、8月は夏休み。バイトや遊びに明け暮れたい時期である。
お祖父さんは、小林さんが生まれる前に亡くなってしまったため、まったく面識がない。
なので正直、命日だからといって帰る気にもなれなかった。
1年目は親たちに言われたとおり帰省したが、2年目は友だちと旅行に出かける予定があったため、東京に留まろうとした。
その旨を電話でお父さんに伝えると、
「ふざけるんじゃない!絶対に戻ってこい!」
ものすごい剣幕で怒鳴られたという。
だが小林さんとしても、友だちとの予定をキャンセルしてまで、意味の分からない決まり事に従う気はない。
「なんでだよ!別に、いいじゃん。俺、じいちゃんと会ったこともないし」
「違う!18日だけは、駄目なんだ……」
「はあ?」
「いいか?実は――」
ここで初めて、小林さんはお父さんから、実家のしきたりの意味を教えてもらった。
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